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ダークナイト

監督:クリストファー・ノーラン/ 原作:/ 100点
【DVD】ダークナイト 特別版

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価格:3,582円(税込、送料別)

良くある「アメコミ実写化→全米No1ヒット。しかも役者が亡くなって話題性抜群」という縮図が嫌で映画館には見に行かなかった作品。しかし、スクリーンで見なかったことを後悔した。最初に点数を書くと100点である。イマイチな点もたくさんあるけれど、それでもなお100点を主張するだけの魅力がある。

 

本作品はバットマンを映像化した数ある作品のひとつである。アメコミの映像化という時点で既に日本人女性の半分は見る気がなくなるだろう。しかしこの作品はスパイダーマンやファンタスティック4のようなファンタジーヒーロー物ではない。リアルに現実世界を描いたハードボイルド作品である。バットマン自身の装備品はすべて工業製品で構成され、おおよそ人間に不可能な動作はしない。無論、現実世界の装備に比べ小型化、高性能化が進んでいるのでややSF的だが。しかし「現実世界を描いた」と述べたのはそういうディテールに限った話ではない。

日本におけるヒーローは完全懲悪の超法的存在として描かれる。そしてそれに対する疑問は描かれない。しかし昔からアメコミの世界においてヒーローは犯罪者でもあった。法的組織に属さない一個人が、法に代わって罪人に罰を執行することは、単なる暴力であり犯罪だからだ。本作品でもバットマンは公的には犯罪者である。裁判無しに犯罪者を個人的に懲罰する1個人として描かれる。しかし現在の法においてなぜ個人が罪人を裁いてはいけないのか。1個人が犯罪者を裁く上での問題点は2つ。正しさの定義と、感情の存在である。

前者は「デスノート」で上手く料理されていたことが記憶に新しい。「銀河英雄伝説」でも語られていたが、現代の日本やアメリカは「清浄なる個人による王政」より「腐敗しうる多人数による民主政治」を選択している。清浄なる個人が清浄でなくなったとき、あるいは死亡した時に、最悪の事態を招かないための保険的政治が民主主義である。「腐敗しうる多人数」がもたらす不便さは保険の掛け金に当たるわけだ。

後者はヒーロー物に限らず多くの作品で取り扱われるテーマだ。妻と子のどちらの命を助けるべきか等、究極の選択を1個人が下すのは非常に困難である。日本の作品だと、桂正和の「ZETMAN」がこの2つの問題点をうまく作品に盛り込んでおり非常に異色である。明らかにアメコミを意識している作品ではあるが。

さて、本作品の主人公バットマンは、実はこれら2つの問題を大まかにクリアしている。前者に関してはそもそも公的立場ではないうえに、実はタダの人間なので、腐敗すれば周囲からのサポートが無くなり自然消滅するからだ。後者に関しては個人の強い意志による決断で何とかカバーしている。そういう演出が実際に存在する。しかし、本作品は3つ目の問題点も明らかにして見せた辺りが斬新。無論そのプロットも多数の作品において扱われてきたテーマではあるのだが、本作品の上手さは、そこに市民を丸ごと巻き込んだことにある。シチュエーションによって善悪の定義が揺らぐのは、何もヒーローに限ったことではない。

 

脚本も非常に上手い。上記3つの問題を上手く話しに織り込み、ハッピーエンドを予感させ、裏切り、重くも意味の深いエンディングへと導く脚本は長時間の作品に中だるみを作らない。物語の最中に人の醜さと崇高さの両方を均等に映し、単なるお涙頂戴の映画でもないが、絶望的な映画でもないという絶妙なサジ加減。そして、これだけの内容をたった2時間半に収めきったことが凄い。全く過不足なし。別に個々のプロットが斬新なわけじゃないんだけれど、料理の仕方が上手い。素材さえよければ美味しい料理になるわけではないのだ。

 

さて、後は映像について。まずオープニングでいきなり度肝を抜かれる。特にカメラが趣味の人間ならなおさらだ。ピエロのマスクの質感が凄い。ただ人が立っているだけのシーンが一眼レフで撮影したポートレートのように美しいのだ。FullHDの液晶とPS3を購入してからBlu-rayの映画をたくさん見てきたし、その中には映像品質最高評価を受けたFantastic4や、映像美には定評のあるイノセンスなどの作品も含まれるが、ダントツでトップの画質。「FullHDといってもまぁ、こんな物か」という感想をいままでBlu-rayに持っていた人は度肝を抜かれるはずだ。これほどソース品質が露骨に出るメディアだったとは...。

ここからしばしマニアックな話。カメラ好きからすると「映画のシーンがすべて一眼レフ撮影並って、それは言いすぎだろう」と思うに違いない。しかし、翌日にメイキングを見て自分の感覚に納得した。なんとこの映画では冒頭を含む幾つかのシーンでIMAXによる撮影を行ったらしい。IMAXとは通常、世界遺産などのドキュメンタリ撮影に用いられる、超高解像度撮影機である。通常の35mmフィルムは21.95 mm x 18.6 mmだが、IMAXで用いるフィルムは69.6 mm x 48.5 mmもある。単純な面積で3倍だ。この巨大フィルムが解像度換算で10,000 x 7,000ピクセル、つまり70メガピクセルの映像を生み出す。一般的なデジタル一眼レフが8メガ〜16メガピクセル程度、フルハイビジョンテレビの解像度が2.1メガピクセル程度であることを考えると圧倒的な解像度である。無論、IMAXはアナログなので、解像度なんてのは目安換算だが、昨今のデジタル一眼の多くのCMOS(フィルムのような物)が23.4mm×16.7mm程度である事から考えても、光学的な有利は想像に難くないだろう。

また、フィルムが大きいということは当然、レンズも大きくなる。レンズが大きいと、要は集める光が増えるのだから、相対的に明るいレンズを使ったのと同じ現象が起きる(これがコンパクトデジカメで画素数なんか競っても無意味だという理由のひとつ)。したがって、暗い場所でも非常に鮮明な映像が得られる。また、大きなフィルムとレンズの組み合わせは焦点距離を長くし、明るいレンズとあいまって背景のボケ味が素晴らしくなる。ただし、その反動として、人物などを撮る際には、ピントの合う範囲が前後10cm程度しかなく、非常に撮影が難しいらしいが。

そんなわけで(長い道のりだった....)、冒頭のシーンは本当に美しい。アナログであっても暗いシーンではノイジーになるのが普通で、もちろんそれは味でもあるのだが、本作品の冒頭は「目の前に俳優がが存在する」とでも言わんばかりの鮮明さ。ピエロの仮面の触感が想像できる。本当に素晴らしい。

無論素晴らしいのは冒頭だけではなく、その後も美しいシーンは多数散見する。真っ暗になりがちな洋画において、全体的にノイズが少なく鮮明度の高い本映画はデジタルメディア向き。また、CGに頼らず極力実写を利用したことによってストーリーのリアリティに納得を付与している。

 

役者の演技に関してはもう、語らずともかな。台詞回しも演技も完璧。そのへんはよその映画批評サイトを参考にどうぞ。本作品の唯一の欠点は....やっぱりヒロインが可愛くないぞ!!ちっとも。アメリカ映画のヒロインは日本人の美的感覚にそぐわないとおもう。でも、それでもこの映画は満点です。オススメ。アニメ以外の映画はあまり何度も見ないbaristaがBlu-rayを買いたいと思うぐらい。早く中古で1500円ぐらいででないかなぁ。ただし、若干怖い映像もあるので、お子様と気の弱い人はご注意を。