日当たりのアクセス数が一回でも100アクセスを突破したら、お客様に感謝という事で、特別コンテンツを公開しようと計画していたのですが、意外なコンテンツが大人気となり、あっけなく達成してしまいました。そのコンテンツとは映画「ジャンパー」です。テレビ放映直後より、あまりの酷い脚本に「はぁ?」と思った方々からの、「ジャンパー ひどい」などの検索でのアクセスが殺到。って事は、今後面白くない映画ばかりみて感想を書くと人気が出るのでしょうか...。それはちょっとなぁ...。
ただし、同じことを繰り返しても面白くありませんし、何より表現手法だけで作家の特徴を出せるほどの知識や文章力がbaristaにはありません。そこで、あるシチュエーションを決めて、それを各作家が作品に取り込んだらという、もしも小説を書くことにしました。
京極夏彦 「後巷説林檎物語」
カタン、と音がした。宵闇の中、引戸の隙間から僅かに漏れた光が、残雪を幽かに照らして居る。
「ようこそ──いらっしゃいまし」
眉の上で切り揃えられた黒髪。柘榴の様に紅く艶やかな唇。女の肌は雪よりも白い。
「此度は足元の悪い中、此の様に辺鄙な所迄──御免なさいまし」
「いえ、その様な事は心配無用。兎に角、要件をお伺い致しましょう」
「──それでは、此方へ」
撮影所に入ると背の高い座椅子が二列に並んで居た。優子は右手の一番手前、観客席に近い座椅子に姿勢良く腰掛けると、小さな顔を僅かに右に傾けた。
「実を言うと私、──胡凛星から参りました、林檎桃香姫と申します」
女はさらに首を傾げると、長い睫を二度瞬かせた。
「それでは貴方は──」
宇宙人なのか、と濱田は呟いた。
白鷺の様に延びる首筋。栗色の大きな瞳。慥かに人間では無い──濱田は幻惑されて居た。
「わはははは、頭の悪い猿だなぁ、此の猿」
不意に松本が立ち上がった。
「どうせ君の事だから、その女が宇宙人なのか、天然なのかと悩んで居たのだろう!馬鹿な男だ。その女は宇宙人でも無ければ天然でも無い!最初から全部計算しているに決まって居る。それを天然萌え等と色惚けして居るから、猿なんだ君は!いや、猿にも劣る!猿だって交配の相手が同種か如何かぐらい区別が付くというのに、君は目の前の女が何者かも解らないのか!」
「──あの、私本当に、胡凛星から──」
「貴方も、いい加減そんな馬鹿な女の振りは御止しなさい!年齢的に今の設定が限界な事は解って居るでしょう!猿の目は誤魔化せても、この松本人志の目は誤魔化せ無いぞ!」
──パチン、と音がした。濱田の手にした草履の底が、松本の後頭部を正確に捉えて居た。
「喧しいわ」
森 博嗣 (後期型)
・書く価値があるとは思えません。
....では、終わってしまうので、なんとか書いてもらえた前提で(萩尾望都先生から頼んでもらうとか)。
森 博嗣 有言と微笑の浜田 - The Perfect Comedian -
スタジオ内には大型の液晶が12枚並べられていた。場面ごとにセットを組みかえるより、コンピュータ制御でセットを描画した方が安いのだろう。このままテクノロジィが進めば、いずれ芸能人自身もCGで描画されるようになるはずだ。そうすれば、そもそもスタジオだって不要となる。その場合、本人が生きているかどうかはあまり重要ではない。
並んだ液晶の右から2番目からわずかに前方、1m程の所に、髪の長い少女が立っていた。彼女の服装はやや偏った集団である芸能界の中でも、平均的ではない。
「実は私、こりん星から来た、りんごももか姫ですのよ」
優子はそういうと、首をわずかに傾けた。時計の長針でいうと4分半の角度だ。
「あ、そう」
「あ、そうってなんですか」
優子は頬を膨らませた。表現通りに頬を膨らませる人は少ない。その点でも優子は平均的でないといえる。
「え、宇宙人だったの、とか、もう少し返答のしようがありますでしょう」
「宇宙人なのは間違いないね。僕もそうだ」
「そんな事はわかっています」
優子は直立したまま両手を腰に当て、浜田をにらんだ。腰に当てた手はお姫様のポーズの為ではない。
「本当に別の惑星からお姫様が来たとしたらまぁ、確かに凄いね」
「でしょう?」
「惑星間航行を可能とするほどの進歩した社会で、未だに王政が続いているなんて。その点は面白い。高度な技術を発展させるには、歴史的にみて自由競争のある資本主義の方が有利だからね。それともつい最近、独裁政権を確立したばかりなのかな?戦争中には技術が飛躍的に向上するものだからね。だとしたら早く帰ったほうがいい。いつクーデターが起こってもおかしくない、危機的な状況だと評価できる」
「もう結構です」
そう言ってドアを開けると、優子はスタジオを後にした。どうしていつも会話が思い通り進まないのだろう。しかし、浜田の発言を一通り反芻し、局の玄関を出たころには、優子の機嫌は綺麗に直っていた。
村上春樹 りんごをめぐる冒険
「実は私、こりん星から来たりんごももか姫なの」
優子はそう言うと首を傾けた。とたんに世界の色が変わった気がした。
「だとすると君は宇宙人という事になるのかな」僕はそう尋ねた。だがそんなことを尋ねるべきではなかったのだ。
「私が宇宙人かどうかなんて、そんなことはどうでもいいの。ただ私はこりん星からきたし、名前はりんごももか姫というだけ。それ以上でもそれ以下でもないわ」
オーケー、いいだろう。彼女はこりん星から来た。そして名前はりんごももか姫だ。嘘のような本当の話というのは、そこらじゅうに転がっているんだ。カモノハシの後ろ足にある毒針のように。
「姫というからには王国なんだね」
「そうよ」
「りんご家になるのかな」
「そう」
僕は少しの間考え、それからふと思いついた疑問を口にした。
「こりん星のりんご家のお姫様なのに、名前はももか姫なんだね。少し不思議な気がするけれど」
彼女は傾けていた首を元に戻すと、深いため息を一つついた。世界は急に色を失ったように見えた。
「りんご家の長女なら、ももか姫に決まっているわ。当然のことよ」
「当然のこと」
「ええ」
僕の頭はいっそう混乱した。りんご家の長女がももか姫なら、きっとピーマン家の長男はオニオン王子なんだろう。だが誰にそんなことがわかる?ピーマン家の長男がにしん王子だと彼女が言うなら、それはきっとそうなのだ。そこでは僕の定理は通じない。こりん星ではきっと、正しい王様と正しい王妃が正しいセックスをして、正しいお姫様を作り、正しい名前をつけて育てるんだ。
↓
ノックの音が聞こえたので扉を開けると、そこにりんご男が立っていた。
西尾維新 林檎語 - リンゴガタリ -
スタジオへ向かう道中、公園の前の交差点で見慣れたツインテールを発見した。どうやら小倉優子のようだ。やれやれ、こうなっては仕方が無い。僕は背後に迫り、ツインテールを両手で鷲掴みにして優子を吊り上げた。
「痛い痛い痛い!何をするんですか、はにゃ田さん」
「はに丸王子っ?」
「失礼、噛みました」
「違う、わざとだ・・・・・・」
「噛みまみた」
「わざとじゃないっ!?」
僕が手を離すと優子は随分高い位置に上がってしまったツインテールの位置調整をした。
「ところで浜田さん、今日はいったい何の御用ですか」
「いや、お前が今どき天然記念物並に珍しいツインテールなんかにしているから、これは鷲掴みにしておくべきだろうと」
「なんでツインテールなら鷲掴みが義務なのですか。それにツインテールはりんご家ではオフィシャルな髪型なのです。浜田さんはこりん星にきたらみんなを鷲掴みにして回る気ですか」
「それはもちろん鷲掴みにして回るつもりだが、----そもそもこりん星ってなんだ?」
「あれ、浜田さんともあろうものが知らなかったのですか?私、実は、こりん星から来たりんごももか姫だったのですよ」
そう言うと優子は子供っぽく首をかしげた。そういえばこいつも怪異の一つだった。判りきった事だったんだ。僕はそれを再確認しつつ、おもむろに優子の両足首をつかんで逆さ吊りにした。
「な、何をするんですか!?」
「いや、りんご家のオフィシャルなパンツを確認しておこうと思って」
「いくらりんご家とはいえ、パンツにオフィシャルもフォーマルもないです!勝負用とそうでないものがあるぐらいです!」
そうきたか!子供の癖に変なことだけ知っている奴だ。
「ちなみに今日のは、かなりの勝負用なのです!」
いや、別に宣言しなくていいから。
「小学生のパンツを見て喜ぶのは浜田さんぐらいですよ。ロリコンだと後ろ指を差され、PTAに有害図書指定されても良いのですか!!」
「だって、こりん星人なんだろ?人間じゃないから法的にはロリコンでもなければ痴漢でも無いし」
「うぐっ!...いいんですか浜田さん。アニメ化できなくなりますよ!」
アニメでこの状況が流れるのは確かにマズい。絶対的に壊滅的に究極的に徹底的に絶望的に拙いだろう。仕方なく僕が両足首を離すと、優子はモロに顔面から落ちて、しばらくジタバタと暴れた。漫画みたいな奴だ。
星 新一 りんごの星
M氏が目を覚ますと部屋の中に女が立っていた。寝起きなので顔がはっきり見えない。いったい誰だろう。
「君はだれだい?」
M氏は目をこすりながらたずねた。
「あら、私が誰だかおわかりにならないの?こりん星の王女、りんごももか姫ですわ」
女はそういうと、スカートのすそを両手でつかみ、少しクビを傾けた。
はて、この女は何を言っているのだろうか。言葉を信じればこりん星の王女という事になるが、地球の付近に知的生命体の住む星が存在するなんて聞いたことが無い。かりに本当だったとして、わざわざ王女が何をしにきたというのだろう。
「それで王女様は何の御用でここへ?」
M氏は少していねいに答えた。もし本当だったとして、王女様を怒らせて、宇宙戦争にでもなったら大変だからだ。
「まだねぼけているのね。今日はあなたの誕生日でしょ。もうみなさんがお待ちになっているから、あなたを起こしにきたのです」
そういって女は窓の方を見た。
なぜ王女様が誕生日を祝ってくれるのだろう。M氏は不思議に思ったまま立ち上がると、窓の方に向かい、一気に雨戸を開いた。
「おめでとうございます、王子!」
国民たちがM氏の誕生日を祝っていた。M氏はさっきまで地球という架空の星の夢を見ていたのだった。
筒井康隆 俺にとってのコリン星
奇妙な女に出会った。見た目は至って普通の、いやどちらかといえば、清楚で魅力的な容姿をした女なのだが、自分の事を宇宙人だと言って譲らないのだ。
「ワタクシハ、コリン星カラキタ、リンゴモモカ姫ナノデス」
女は軽く首をかしげた。
「はぁ。宇宙人」
「ソウデス。ウチュウジンデス。ホントウナノデス」
「しかしね君。どう見たって君は人間じゃないか。古いSFのようにタコ型とまでは行かないが、せめて肌が青いとか、耳がとがっているとか、何か工夫が必要という物だろう」
「コリン星人ハ、コウナノデス。ドウシテ、シンジテクレナイノデスカ。ホラ、ハナシカタモ、コノヨウニ...」
「喋り方以外の特徴は無いのかね。それにね、君。読者は君がカタカナで話していると理解するかも知れないが、作中の僕から言わせてもらえば、カタカナもひらがなも漢字も、全部同じ音に聞こえるんだ。それでは判断材料にならないだろう」
「あの、先生」
振り向くと、編集部の桃香君が立っていた。彼女は書きかけの原稿を覗き込んで憮然とした顔をしている。
「先生のSF作品に人気があるのは承知しています。でも、このいかにもステレオタイプな宇宙人の設定はいかがなものですか。それにこれ、勝手に私の名前を使わないでください。私が青森出身だからって、リンゴという苗字も安直過ぎます」
桃香君は腰に手を当てて俺をにらんだ。すまんすまんと謝りながらも、俺は窓ガラスに映った彼女の冷たい視線にゾクゾクした。
「いやね、君。変に複雑な作品より、最近は単純なものが受けるんだよ。それにほら、君をモデルにしているから、ちゃんと清楚で魅力的と書いているだろう。読者はきっと...」
「きっと、私のことを天然の馬鹿女だと思うでしょうね。大体なんですか、単純なとか言いながら、急にメタな視点を挟んだりして」
「これは大切な実験なのだよ。小説内の創造世界をひろげ、徐々に現実との境界を曖昧にするという。例えば、さっきの会話で作中のモモカ姫は外の世界を認識しただろう。逆に、君とのこの会話も、ほら、こうして原稿用紙に書き写した瞬間に、現実でありながら、僕の創作とも言える。つまり、今や君は創作中の人物でもあるわけだ。例えば、ここに僕がこんな地の文を書いたとする」
桃香君は実はコリン星から来たリンゴモモカ姫だった。俺はその事実を暴く為にあんな小説を書いたのだった。
「するとね、君は既にリンゴモモカ姫と同一人物になるんだよ」
「そんなのは言葉遊びです。だとしたらどうだと言うのですか?」
「例えば君、君の出身がどこだったか言えるかい?」
「え?」
「君の出身地だよ」
「そ、それハ」
「どうしたのかね?」
「....言えませン」
「そんな筈は無いだろう。ほら、リンゴが名産の、あそこだよ」
「....コ、コリン星デス」
彼女は悔しさに顔を真っ赤にした。思ったとおり、彼女は既に俺の小説に取り込まれている。しめしめ、これで後は俺の思い通りだ。
「僕はね、前から君のことが好きだったんだよ。しかし君には大手出版社に許婚者が居るというじゃないか。でもこうして創作中の人物になってしまえば、君は僕の思い通りというわけさ」
「ソンナコトノタメニ」
「それにね、さっき僕は『人物』と言ったけど、君は今や宇宙人だ。もはや人権は無いわけだから、何をされても文句は言えないだろう」
「ヒ、ヒドイ」
「そんなに悲観する事はない。君はあくまで創作中の人物なのだから、現実世界での不貞にはなるまい」
「イケマセン。イケマセン」
「何がいけない物か。君の肌は本当に白くて美しいな。東北、いや、コリン星の女性はみんなこうなのかね」
そういいながら、俺はモモカ姫の頬をペンを持っていない左手で撫でた。
「イケマセン。ソンナコトヲシテハ」
大きな破裂音がした。破裂したのは俺の腹だった。見事に巨大な穴が開いていたので、腹の穴越しに覗き込むと、後ろに銃を構えた兵士がずらりと並んでいた。
「ダカライッタノニ。ワタシニソンナコトヲシテハ、スウ10マンノ、ヘイタチガ」
失敗した。俺は確かにナンセンス作品ばかり書いている作家だが、実の所リアリティには拘る方なのだ。俺の創作世界の姫であれば護衛ぐらいは連れてきているだろう。もっと自由にできる人物として描けばよかったのだ。
俺は原稿用紙の上に突っ伏した。創作の中の俺の死は現実には影響しないはずだ。しかし、さっきまで創作世界を自由に操作していたという事は、今死にかけている俺は現実の俺でもあるのではなかろうか。このままでは、俺も、創作に取り込まれつつあるこの世界も、一緒にこの世から消えるかもしれん。切羽詰った俺は、震える手で末期の筆をとり、遺言代わりにこう書いた。
「と、いう小説を書いたのだが、どう思うかね?」
俺の後ろには憮然とした顔の桃香君が立っていた。どこかから「なんだ夢オチかよ」という声が聞こえた気がした。
作家の皆様、申し訳ございませんm(_ _)m
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