いじめられっ子だった主人公はあるきっかけで瞬間移動能力を身につける。能力の目覚めにより、快活に自由気ままな青年として育つ主人公。しかし突然現れる謎の組織。彼らは法で縛ることの困難なテレポーターを問答無用で殺戮するという、恐怖の集団(パラディン)だったのだ。主人公に迫る危機。彼は同じ能力をもつ仲間と共にパラディンに打ち勝つことが出来るだろうか!!
しかし実際のところ、本作品の脚本は崩壊している。映像も役者の存在感も演技も悪くないのに、何でこんな馬鹿っぽい脚本を採用したのか。本作につけた50点はほぼ全て映像・演技力に対する評価だと思ってもらってよい。
ネタバレ1
主人公のライスのあだ名は「ライスボール」。日本語でいうなら「おにぎりくん」。ライスはハリウッド映画にありがちな若干苛められっ子なさえない奴である。とは言うものの、プレゼントを意中の娘に渡したりしても相手はまんざらでもなさそうで、家庭環境が複雑とはいえ、あまり悲壮感は無い。
で、そんな彼はいじめっ子に取り上げられた彼女へのプレゼントを拾いに、氷の張った川へ。案の定落ちる。で、水中で死にそうになるうちに、能力に目覚めるわけだ。このあたりはもう、ハリウッド映画の典型的な幕開けなので、「これまでのあらすじ」みたいに回想シーン30秒で終わらせてくれても良い。
ところが、ここからの彼の行動が穴だらけ。まず、川に落ちたあと必死の捜索が行なわれていただろうことは疑い無いのに、彼は姿を現さずそのまま自宅に帰り、その後能力を生かして家出する。結果、意中の女の子を含む周囲の人間は彼が死んだと思ってしまう(彼女の家の前に拾ったプレゼントだけ置いて帰ったが、正直幽霊の仕業みたいで気持ち悪いと思うぞ)。
「まわりの心配を顧みない酷い奴だ」って話の前に、不思議なのはなぜ彼は死んだことになっていたのか。彼はびしょぬれで家に帰った後、その姿で父親と会話している。川に人が落ちたとなれば、捜索隊が展開され、当然父親にも連絡が入るはずだが、そのあたりの設定はうやむや。なんて適当な。
で、彼がやることと言ったら、いきなり銀行強盗である。モノローグには「初めは返すつもりでいた」とかほざいてるが、「袋が小さいな」とか言いながら金庫と部屋を往復し、中の現金を根こそぎするあたり、もう子供丸出し。せっかく証拠が残らないんだから、ちょっとずつ誰にも気づかれないように盗めばよいものを(そういう問題じゃないか)。
しかしまぁ、超能力を手に入れたら有頂天になって悪用するのは理解できる。自分だってきっとまずは悪用すると思う(程度の違いこそあれ、だが)。しかし普通はそこから「力の重大さ」を理解し、正義の心に目覚める展開が待っているものだが、そうはならない。盗みをやめないだけならまだしも、彼は、「彼なら助けられるいかにもな例」である「川に漂流して命が危ない人」などのテレビ映像などにも気を止めることは無い。彼らを見捨てたままサーフィンに行って、酒場で引っ掛けたおねぇちゃんをコマしてとやりたい放題。その後、それを大いに反省する展開になるのかと思いきや、そのままこの前フリは回収されず。この時点で彼に感情移入できる観客はゼロになる。なんなんだ、この設定。
で、「生きてたの?」なんて軽いノリでついてくる、懐かしい意中の彼女を、彼女の昔からの夢だった旅行へ連れまわす。能力を生かして入れないところに入ったりと好き放題やっているうちに、有無を言わさずジャンパーたちを殺す「パラディン」が登場するのだが、上記のような理由もあって、もはやパラディンこそが主人公にしか見えない。空間を転移する能力者たちを相手に、怪しげな機械を駆使して戦う一般人の姿は異常に格好良く、ゴースト・スイーパーやヴァンパイア・ハンターやMIBのそれ。関係の無い人まで殺す点を除けば、彼らを応援したくなるのが普通だろう。
ただし、ここでもよくわからないのが「関係の無い人を殺す理由」である。パラディンの存在はジャンパー界では有名なようだし、ジャンパーの存在が知れたからといって世界に危険が及ぶとも思えない。なぜなら彼らが退治するからだ。むしろ情報共有したほうがジャンパーを追い詰めやすくなるだろう。悪役だって行動倫理があるわけで、「殺したくは無いがxxxxのためには仕方が無い」という理由こそが、彼らの「統率」を表現し、組織としての恐さを表現しうるのだが、その「xxxx」が無いのでなんだかもう、誰にもなんの感情移入もできなくなってしまう。
で、最終的には「好き放題やったせいで命が危険になった彼女」を救うためならなんでもやって、手伝ってくれと頼み込んで仲間にした別のジャンパーも裏切り、友情も努力も改心もないまま、力技で勝利。
で、子供の頃姿を消した母親は実はパラディンの一員で、彼を見逃す。意味不明。母親!お前がしっかりしないから息子がこういう意味不明なやつになるんだってば。「ジャンパーなのを知りつつ、能力を隠して育てる。そのために、彼に徹底的な教育を行なう」もしくは、「母親の愛情を殺して、泣きながら息子を殺そうと戦う」あたりを検討してくれないと、あんたを登場させた意味が無いって。
んなわけで、「この親にしてこの子あり」と思った次第。
baristaがこの作品の脚本を書き換えるならこんな感じだろう。
ライスは典型的な苛められっ子。幼い頃母は失踪し、父は酒乱。しかし彼にも好きな娘が居た。彼は彼女にクリスマスプレゼントを渡すも、いじめっ子に取り上げられ、河の薄氷のうえに投げ捨てられてしまう。慌てて拾いに向かう彼女。しかし氷が割れて転落。助けようとしたライスも一緒に落ちる。死の寸前に彼は能力を発動し脱出。しかし彼が見たものは、一緒に脱出した彼女の血に染まった姿だった。テレポートの際に能力の範囲外だった右足のひざ下を河に置いてきてしまったのだ。泣き叫びながら彼女を病院に連れて行くライス。彼女は命を取り留めるが、「自分の能力が産み出した悲劇」にいたたまれなくなったライスは(旅行が夢だった彼女の足を奪ってしまったのだから当然だ)彼女が目覚めるまでに姿を消し、そのまま失踪する。
失踪した彼には行き場所が無かった。しかし、子供の頃の懐かしい思い出が頭をよぎった瞬間、彼はその場所に居た。(廃棄・閉鎖された寺院、廃校など)彼は能力の使い方を少しずつ学び、飢えと貧困から、銀行の金庫室にテレポートしてお金を盗む事を決意。見事に成功した彼は誰にも気づかれないよう、方々の銀行から少しずつお金を盗み、故郷から離れた町に移り、ひっそりと生活する。
ある日彼は、テレビで洪水で瀕死の親子を見つける。長期間の能力の使用で自信をつけた彼は、「自分の能力が産み出した悲劇」の記憶におびえつつも彼らを救う。彼は自分の能力が世の中の役に立てようとポジティブになる。しかし、このときの映像がパラディン達に目撃されていた事には気づいていない。
成人したライス。たびたび就職するも、人助けに追われるため生活が不規則となり、長続きしない。アルバイトをして食いつなぐが、どうしようもなくなるとまた、銀行の金庫室に忍び込む日々。
そんなある日、たまたま助けた車椅子の女性は彼女だった。最初は自分の能力を隠すも、彼女にはばれてしまう。「知ってるのよ。あの時私を助けてくれたのも貴方なんでしょ?」謝罪するも、むしろ彼女に感謝される主人公。物語が一気にあかるく...なるかに見える。ところで、昨今の彼による相次ぐ謎の救出劇、彼のような能力者が絡んでいるとは彼女も気づいていたらしい。....当然パラディンだって気づいているわけだ。
彼女との再会に喜ぶ主人公。「旅行が夢」だった彼女を連れてローマ各地を回る。ところが楽しい旅はつかの間。パラディンが突然現れ、彼は殺されそうになる。わけのわからない攻撃にうろたえるライス。
束縛状態になり、絶対的優位状態で調子に乗ったパラディンがパラディンについての説明(ありがち)。「銃を手にした人間は、いつか引き金を引かずにはいられない。その前に銃を取りあげるのが我々の仕事だ」「引き金を引かない銃が守る平和だってある」
ところがそこを後を追ってきた彼女が目撃してしまう。ジャンパーにパラディンの存在を知られると、一般人であるパラディンはジャンパーに近づくこともできない。したがって目撃者も含め完全な口封じが必要であることを追加説明し始めるパラディン。
絶体絶命の危機に突如現れる母。実は彼女は伝説のジャンパーだった(ありがち)。で、お互いの正義をぶつけながらの母子vsパラディンたちの戦いがひとしきり。「僕は能力を人助けに使っている」「銀行強盗は正義なのか」「人は傷つけていない」「無くなった金の責任をとって誰かが首をつるかもしれないとは考えないのか」「死にそうな人を見捨てることは出来ないし、僕も生きていかなければならない」「お前がやっているのは死ぬべき運命の人を生かし、生きるべき人を殺すことだ。人の運命を左右する権利がお前にあるのか。それは神のみに許される行為だ」
戦いつつも徐々に自分の正義に自信が持てなくなるライス。そうしているうちにパラディンのリーダー格が彼女を捕まえて叫ぶ。「例えばだ。俺は俺の正義のために今から彼女の口を封じる。お前は本当に引き金を引かないでいられるのか」
彼女を助けに向かおうとするライスの背後に別のパラディン。死を覚悟するライス。それをかばう母親。母親の死。「信じる道を進みなさい。貴方ならどこにでも飛べるわ(you can jump to everywhere)」彼の怒りが爆発。分身しているかのように見えるほどの速度でテレポートを繰り返し、パラディンを一掃。さっきのパラディンを追い詰める。
「本性が出たな。殺せ。俺が死んでも組織はどこまでもお前を追い詰めるぞ」
怒りの表情を燃え上がらせるライス。パラディンの前に手をかざすと目の前に現れた、人型の赤い網状の物体。彼はパラディンの血管内の血液をすべて瞬間移動で抜き出してしまったのだ。その光景に恐れおののきつつ意識が遠のくパラディン。顔が真っ青に。
「俺は....お前を....殺さない」
血液をもう一度瞬間移動させパラディンの体内に戻す。一気に体色が元に戻る。
「いつでも追いかけてこい。俺のジャンプについてこれるなら」
母親の遺体と彼女を回収して姿を消す主人公。ここで初めてJumperのタイトル表示。
とまぁ、こんな感じか。....殆ど原型が残ってない上にバットマンみたいな展開だな。続編は「能力を私利私欲に使うジャンパー(本物の映画のライスじゃん!とかいわない)」との対決で、市民の前で戦闘に。パラディンと三つ巴になって「こいつだって銀行強盗だぜ!」なんていわれて、市民からdisられるって展開にするとますますバットマンだな。
安っぽいしありがちな展開だけれど、baristaバージョンの方が数字は取れると思うのだが。
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