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ミーナの行進

作者:小川洋子/ 原作:/ 93点

■ありえなさそうでいて地に足のついた味わい深い作品

 

※面白かった作品にはいつも書いていることだけど、先入観なしに読んだほうが良いので、未読の方は注意。こんな駄文を読んでる暇はないですよ。

 

「ミーナの行進」は小川洋子による、とても真っ直ぐな文学作品である。そんな事書くと、いつもはまっすぐじゃないのかと言われそうだが、まぁそのなんだ。アレだよね。小川洋子の作品ってどれも味わい深いものばかりで、文学性の高いものばっかりなんだけど、どこか病的な何かとか、そういう非現実性を物語の主軸にすえている物が多い気がするのだ。ところが本作品は、物語の設定や登場人物の性格こそちょっと突飛でこそあれ、なんだか夏目漱石だとか、そういう古い純文学作家の作品を読んでいるような、そんな地に足のついた雰囲気の作品なのである。

 

以下、物語の設定や登場人物の概要に触れます。

 

物語の主人公は朋子という名前のやや不運な生い立ちの少女である。というか、正確には大人になった朋子が、30年前に経験した、とても印象的だった約一年間の出来事を思い出しながら記した作品である。

朋子は幼い頃に父をなくし、母子家庭となった。家庭は経済的に非常に厳しく、そのままでは到底生活もおぼつかない状態であり、彼女の母はある決心をする。それは娘の朋子を1年間、叔父の家に預け、職業訓練のための学校に通うことだった。

斯くして叔父の家に預けられることなった朋子だったが、そこで待っていたのは想像も出来ないほど豊かな生活だった。彼女の叔父は、とある会社の社長である。その会社は祖父の代から続くものであり、彼の母親はドイツ人で、叔父はとてもダンディなハーフであった。ミーナは朋子と同じぐらいの年齢の娘で、喘息持ちで痩せっぽちの、しかし儚げで美しい少女だった。

 

さて、そんなハウス劇場でも展開されそうな設定の中、実際に彼女はハウス劇場かのような体験をする。ちょっと叔父の設定が過激ではあるものの。

本作品を読み進めるうちに、まずは「設定は面白いけど展開は地味だなぁ」と感じた。しかしその地味に描かれた1年間の出来事が、物語の終盤、大人になった主人公の目線から改めて語られた時に、何だかゾクッとしてしまった。それから現在のミーナの姿にもグッと心をつかまれた。

多分この感覚は10代の読者とかには共感できないのではないかなと思う。逆に30歳以上の読者には超おすすめです。