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ヒア・カムズ・ザ・サン

作者:有川 浩/ 原作:/ 62点

■企画物小説としての面白さ

 

「企画モノ」とカタカナにするだけで、ちょっと淫靡な感じになるのは何故だろう…とかいう話は置いといて、本作品はとある企画によって作られた、(ほぼ)同じタイトルの中編2作を収録した、ちょっと変わった作品である。

 

ではその企画とはどんなものだったのか。実は企画者が「主人公には手に触れた物から、その物に込められた強い『想い』を感じ取る能力がある。彼は恋人の生き別れた父を迎えに空港に向かうのだが....」的な文章を企画者が4行程度書き、それを元に、有川浩に執筆依頼を出したのだ。ここまでだとよくある話なのだが、同じ企画書を実はとある劇団の脚本家にも渡していた。脚本家はそれを元に一つの舞台を公演したため、同じ企画による2つの物語がこの世に誕生したわけである。

 

で、この作品の前者は、有川浩による小説作品。後者は、舞台脚本を元に、有川浩がノベライズした小説作品なのである。どうせだから後者は別の作家もしくは、脚本家自身がノベライズしてくれたほうが面白かったのにと思わなくもないけど。

とりあえず、そんなふうに、同じテーマで別の作家が書いた物語はどんなふうになるのか、ってあたりを楽しむ作品である。

 

【Here comes the sun!】

前にもどっかで書いたけど、有川浩って作家は、こういう何らかのテーマを与えられた時の処理が抜群にうまい。今回の場合で言うと、その「能力」の扱いが非常に慎重で、「いやいや、そんな力はないって」という読者の拒絶反応が起きないよう、見事な調整がなされている。

物語の結末も有りがちといえば有りがちなんだけど、凝った作りになっていて良い。芸術家のそういう生き方って憧れるよね。自分には無理だけど。

 

【Here comes the sun! parallel】

さて、こっちは元々劇脚本だったもの。演劇の脚本が元本となっている都合上、物語の展開は早く、構造も単純である。たとえば、主人公の持つ能力については「サイコメトラー」という一言でスパっと解決されたりする。そういう事情があって、単純なお涙頂戴の人情物に落ち着いてしまっている感があり、正直小説としてはちょっと物足りないかも。文章から映像を思い浮かべる際に、実際の光景ではなく、舞台上のセットで役者たちが演じるシーンを想像すると、違和感がないのだが。