神様のカルテ2作者:夏川草介/ 原作:/ 83点
■解決しない美学
神様のカルテ2は神様のカルテの続編だ(当たり前)。前作はミーハーだからと避けていたが読んでみたらとても面白かったので、続編についても読んでみた。結果としてはやっぱり結構面白かった。
前作を知らない人のために描いておくと、本作品はとある田舎の病院で奮闘する医師(何故か口調が夏目漱石)を主人公とした医療ドラマである。前作のストーリーは未読の人のために語らないが(忘れたんだろとかツッコムのは無しだ)、特に前作を必要とせず、単体の作品として成り立つ作品である。しかし、前作から引き続き読んでいる人のほうが深く作品に入り込めると思うので、このタイトル設定は正解だと思う。
物語の冒頭は、主人公と、写真家の嫁とのエピソードが、何だか説明くさい感じでタラタラと流れる。正直前作を読んでいる身としては結構イライラした。折角「2」と書いたのだから、こんな眠いオープニングはやめれば良いのにと、強く感じた。...のだが、実はこの冒頭のシーンが、後々物語に意味を持たせるようになっている。なので、良い子はここで投げ出さない。
以下、物語の構造に触れるためネタバレ嫌いの人はブレーキ。
前作で語ったような、田舎の人手不足で忙しい病院に、主人公のかつての同級生が医師としてやってきた。しかも彼は同期の中でも特に優秀かつ、志の高い男だったから、これで人手不足も解決と、医師も看護婦も大いに喜んだ。しかし、彼の評判は日に日に悪化した。休みの日には仕事をしない。遅くまで残ることもなく、当番分の時間が終わったらそそくさと帰ってしまう。とても「割り切った」勤務をする男だったのだ。 「って、それの何が悪いの」とここまで読んだ読者は感じるだろう。それが普通の感覚である。しかし、医療の世界にはその普通が通じない。例えば貴方の子供が重い心臓病で手術を待つ身だったとする。担当医は非常に優れた心臓医だ。しかし彼は土日には決して出勤しないとしよう。子供は頻繁に発作を起こす。しかし、土日には「対処法は言付かっているから」と代わりの医者が対処する。 さて、貴方のその医者への評価は上がるだろうか、下がるだろうか。多分下がるだろう。自分の子供が元気になるまでだけは、土日にも働いて欲しいと考えるはずだ。そしてその医者の患者全てが同じように考えるのだから、彼に勤務を望まれない日は存在しない。 それでもまぁ、医者にも生活があるから「仕方ない」と、理知的な人なら考えるだろう。だが、医師が休んでいる日に子供が発作を起こし、手術を迎えるまでに天に召されたとする。貴方はまだ「仕方ない」と言えるだろうか。少なくとも僕は言えない。心からは。
シリーズ二作目の本作は、医療と医師の生活に焦点を当てた物語だ。シリーズ1作めで主人公の上司たちは24時間いつでも患者を見てあげられる病院を田舎に実現するために、必死で戦う姿を見せてくれる。医師の多くは人命救助が生きる目的であり、自らの私生活は二の次となってしまうことが多い。しかし、それはほんとうに正しい姿なのだろうか?
以下、結末に触れるネタバレのためブレーキ
本作品の素晴らしい所、そして同時に恐ろしいところは、物語が劇的解決を迎えない点である。あの問題も、この問題も、読者を喜ばせるような楽しい形での解決を迎えない。人間の生死にアニメ的な救済措置など存在しないのだ。この残酷さは、それぞれの読者に問題について深く考えさせる為の仕掛けである。こうすれば良くなるのに、などという単純な解決策などどこにも存在はしないのだ。
ってなわけで、今回もまた、重松清かよ!ってなぐらいに重たい内容を、詩的で古風な独特の文体にて柔らかくして飲み込ませる技術に感心させられた。同じパターンだと思いつつ、素直に脱帽。良作ですよ、今回も。 Copyright barista 2010 - All rights reserved. |