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いまだ下山せず!

作者:泉 康子/ 原作:/ 71点
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■ミステリ小説の魅力を備えた、ノンフィクション山岳ドキュメンタリー

 

「いまだ下山せず」は「のらくろ」という登山会のメンバ3人の遭難後、彼らの姿を追い求める残された者たちの戦いの日々を描いた、ドキュメンタリー作品である。「小説である」と書かなかったことから分かる通り、本作品は実際の遭難事件での出来事を忠実に記したノンフィクション作品だ。なので本来であればこの「小説」ジャンルでの書評を書くのは筋違いではあるものの、あえて掲載することにする。それは本作品が確かに小説的魅力を発揮しているし、それが作者の筆力によって成し遂げられていると感じたからである。

 

登山会の3名は年末年始の休みを利用して、槍ヶ岳の登頂に挑戦していた。しかし、予定されていた下山日を過ぎても連絡がない。その年の年末は、酷い吹雪に見まわれ、同じ槍ヶ岳を目指していたたの登山者達の多くは、様々な予備ルートを通じて下山していた。心配するのらくろのメンバは山荘に集まり、彼らの消息明らかにすべく、駆けまわるのだった。

 

いや、これは面白い。実在の人間の不幸を取り扱った作品に面白いなどという言葉を使って良いのかどうかは分からないが、作品として評価した場合、たしかに面白いのだから仕方がない。

文体は本当に実際に起ったことを日報的に淡々と記したものであり、正直言って読みやすいものではない。登山の専門用語が多いし、文章から山中の座標を3次元イメージに起こさないと理解できないなど、読者に対するハードルは非常に高い。前半の30ページぐらいはかなり行ったり来たりしながら読むこととなってしまった。

しかし、序盤の高いハードルを超えた時に見えてくるのは、必然性という限定要因に裏打ちされた、壮大なるミステリの世界である。犯人や被害者の行動を現場に行かずして明らかにするタイプのミステリを、揺り椅子型などと呼称する。しかしその多くは想像の域を出ない。また、電車乗り換えミステリなど、非常に条件が限定されたタイプのものもの存在するが、そういったものはいわば謎のために謎が作られた、非常に人為的なものである。

しかし本作品の謎解きは、現実にありうる事象を、いや、現実に起こった事象に対し、登山家としての合理性というただひとつの鍵を使って挑戦し、彼らのたどったルートを解き明かす様が凄い。それはシステム屋がバグを見つけ出す作業と同様、論理的帰結であって、単なる推測などではない。

 

物語が実話を扱ったものであるがゆえに、終盤に全てを裏切るような、驚愕の結末は待っていない。しかしリアルミステリ作品として、ストーリーよみにも耐えうる魅力を持った作品だと思う。

個人的には重たい終幕に色々と考えさせられてしまった。命を賭してまで山に登ってどうするんだと思いつつ、じゃあお前は命を何に使う気なのかと、正面から聞かれると困ってしまうのだ。