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オー、ファーザー

作者:伊坂幸太郎/ 原作:/ 83点
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■漫画みたいに都合の良い展開が許せるほのぼのっぷり

 

本作品の主人公はやや万能型の高校生である。学校の成績は優秀。運動神経も悪くなく、格闘技の嗜みがある。見た目がそこそこ良くて喋りも上手いため女の子にもモテる。しかし、そんな彼にも人には言えない特殊な悩みがあった。彼には父親が4人もいたのだ。

 

もう既に必要十分な説明をした気がするので、未読の方は本屋に向かっていただければと思う。既読の方はもう少しだけお付き合い下さい。

 

上記の説明だけを聞くと似たような設定の物語は有りがちなように見えるが、本作品はちょっと違う。出生の前後の人間関係がが複雑で誰が父親かわからない、っていうようなストーリーではないのだ。主人公の父親たちは全員自称父親で、なんと全員が仲良く同居しているのだ。母親が亡くなったので仕方なく元彼たちが同居して息子を育てている、などという感動物語ではない。母親はとても元気で、仕事に没頭して滅多に家には帰ってこず、4人の自称父達は彼女や息子への愛情を互いに語り合いながら、奇妙な共同生活をしているのである。主人公が妙に万能型なのは、4人のそれぞれ別の特徴を持った父からの教えを受けているからなのだ。

 

以下、ストーリーの大きな流れに触れます。ネタバレに厳しい方はここでブレーキ。

 

物語は主人公の友人が引き起こしたちょっとした事件をきっかけに加速する。これがまぁ、友人の自業自得っちゃぁ、自業自得なのだが、主人公がまぁ、冷たい。適当にあしらったせいで事件に巻き込まれたとも言えるので、ちょっとその辺りは冷めた目で読んでしまった。

しかしまぁ、それは大きな欠点ではない。物語はある主漫画的に、徐々に最悪の展開を迎える。その最悪の展開を4人の父が如何に解決するか、ってあたりが、物語の見所となる。

正直解決編はこれまで以上にご都合主義で漫画みたいなんだけど、それが許せるぐらいに登場人物たちが魅力的。いや、絶対に実在しないタイプばっかりなんだけど、それでもニヤニヤしながら見守ってしまうような、変な魅力があるのだ。一番近いなと感じたのは「ズッコケ三人組シリーズ」である。つまり、この作品って若干過激な描写が多すぎるから気づかないけど、構造的には完全に児童文学なんだよね。ファザコン物の。

 

以下、完全なネタバレ

 

そんなわけで、大人向け児童文学とも言える、ちょっと奇抜な作品。瑣末なことを着にしなければほんわかと暖かい気持ちで読み終わる事のできる良作品。普段、伊坂作品が殺伐としているからと避けている読者にもおすすめです。