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神様がくれた指

作者:佐藤多佳子/ 原作:/ 75点
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■スリ師と占い師という意外な組み合わせの二人の物語

 

「神様がくれた指」の主人公である辻牧夫は物語の冒頭で出所する。彼は神様が与えたある才能によって仕事をしており、その失敗で収監されていた。彼は失われつつある伝統的な技術によって天才的な能力を発揮するスリ師だったのだ。

彼は複雑な環境で育っており、出所の際に迎えに来たのは彼の義理の母に近い存在と、義理の妹に近い存在だった。電車に乗って帰ろうとする三人だったが、電車を降りようとするその瞬間に、彼の「母」は財布をスられてしまう。当然同業者の彼はそれに気づき、逃走役の少年を追いかけたのだが、武道の心得があると思われる少年に投げつけられ、脱臼してしまい、彼を取り逃がしてしまうのだった。

あまりの痛みに意識朦朧とする彼を救ったのは、ロングヘヤーの美しい、謎の占い師、昼間薫。彼は男性でありながらとある理由により、女装して占い師を営んでいたが、博打好きが災いして住処を追い出されかけていた。助けられたお礼にと、辻が借金を肩代わりしたのをきっかけに二人は奇妙な共同生活を始めることとなる。

 

以下、物語の大きな流れに触れます。ネタバレに厳しい方はここでブレーキ。

 

さて、このあと辻は古い知り合いを頼って犯人探しをする。当然ミステリ的な楽しみ方が出来る作品となるわけだが、それ一辺倒ではない所がこの作品の魅力である。彼が犯人を追う過程で、頼った知り合いもひどい目にあう。しかしその知り合いは犯人をかばうかのような行動すら取ってしまう。それを非難する主人公だが、彼自身、物語の後半で同じような感情を持ってしまう。

 

以下、重大なネタバレ。

 

また、占い師も単なる博打ぐるいではない。恐らく彼が占い師という職業を選んでいるのは、街の人々の悩みに耳を傾けるためであろう。それは彼が本来進むべきだった道とも関係している。

 

上記のような様々な人間の内面描写と、スリリングなミステリ的展開が渾然一体となることにより、文学色が強いのに漫画のように勢い良く読むことができるという、なかなか特殊な作品。素晴らしい。お薦めです。

 

※なお、本作品の主人公がスリだからといって、不謹慎だと作品を徹底的に貶している輩が多いようですが、ちょっと狭量かなぁと。それを言い出したら、ルパン三世は泥棒だし、イニシャルDは道路交通法違反だし、多くの少年漫画は傷害事件を起こしまくってるし、少女漫画の多くは全員不純異性交遊ばっかりだ。まぁ、紋切り型にそういうのが駄目だって人はどうぞ子供向けの作品を選んでいただきたい。もっともドラえもんですら犯罪と無関係とはないと思うのだが、何を読む気だ?