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原稿零枚日記

作者:小川洋子/ 原作:/ 76点
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■悪夢形式の私小説

 

「原稿零枚日記」は物書きを生業とする女性の日記の形を模した、小説作品である。物語は主人公の一人称視点で語られ、彼女が物書きという設定であることもあって、文体は穏やか。彼女は、日々経験した出来事を日記にしたため、日記の最後にはその日何枚原稿を書くことができたかを<原稿◯◯枚>という書式でメモする。ただ、そのメモ書きの殆どが<原稿零枚>であるがゆえに、このタイトルなのだろう。

 

さて、上述の通り、非常に穏やかな文体で描かれる作品のため、本作品は一見、江國香織や瀬尾まいこのような作家の描いた、爽やかなエッセイ本に思える。しかし、読者は直ぐに違和感を覚えることになるだろう。

彼女の描く日常は一見何でもないようにみえて、途中にとんでもないものが混ぜ込まれている。しかしそれはナナメ読みをしている人には気づかないようなレベルのものから、じわりじわりとせまってくるため、読者はいつの間にかその気持ち悪い世界が普通であるかのように読み進める事となるのだ。これはちょうど悪夢を見ている人が、その設定をおかしいと感じない状況に近い。

 

物語はやがて彼女の奇妙な幼少期の体験や、奇妙な職業や、奇妙な趣味を明らかとする。何となくだけどこれ、小川洋子のデビュー前の記憶や母親の記憶を、悪夢形式で書いた私小説なんじゃないかな?

そういう構造のため、物語には本筋となるような大きなストーリーなどはない。小川洋子作品の持つ独特の雰囲気が好きな人にはお薦めだけど、小川洋子耐性のない人にはついていけない作品かも。自分は前者なので非常に楽しく読めました。特に「趣味」はちょっと真似したくなるような、危険な魅力があるよなぁ。