クローズド・ノート作者:雫井脩介/ 原作:/ 72点
■女性的に柔らかく優しい作品
小学校教員志望の香恵は大学生。新しく借りた部屋で一人暮らしを始め、文具店の万年筆コーナーでアルバイトをすることとなった。どう接客して良いのか分からず戸惑う香恵だったが、初めて自分の接客で万年筆を買ってくれた、芸術家の男に淡い恋心を抱くようになってしまう。 万事抜けたところのある彼女は、押入れの中もちゃんとチェックしてなかったようで、ある日押入れの中からびっしりと日記の書き込まれた一冊のノートを見つける。それは以前この部屋に住んでいたと思われる女性の書いたもので、彼女は香恵の憧れる職業である、小学校の教員であった。 人の日記を盗み読みする事に罪悪感を覚えたものの、その女性の人間性に心惹かれた香恵は、それを少しずつ読み進める事となり、日記の中の彼女の言動に勇気づけられて、バイトに恋に励むこととなる。
この序盤の展開が抜群に面白い。文体も好きだし、日記内の世界が現実世界に影響する構造も楽しい。万年筆への愛情たっぷりなバイト先での接客描写も個人的に大好物。こういうマイナー職業物は毎度のことながらたまりません。
一方、中盤に入ると主人公の恋愛レベルの低さにイライラ。「男」の行動指針にも身勝手さに見える鈍感さが溢れててイライラ。それよりも何よりも、物語の結末がバレバレで、「いや、早く気付けよ」とイライラ。 ただね、これ、物語を全部読んで、後書きまで読んだ時点で、矛先の収まるイライラなので我慢していただきたい。いや、後書きは小説の一部じゃないから普段は認めないんだけど、今回は特別だわ。 重大なネタバレ
ネタバレ内にごちゃごちゃ裏事情を書いたが、そんなのを抜きにしても、中盤の停滞感に目をつぶれば、恋愛小説としては気持ち良い出来だと思う。既に映画化されてるらしいけど、多分映像化に向いてるコンテンツだと思うのでちょっと見てみたい所。 しかし、文章が柔らかくて、最初に作者名を確認してから読んだにもかかわらず、完全に女性作家の作品だと思って読み終わり、表紙をみて「わ、そういや男性作家だった!」とビックリしてしまった。文章が非常に綺麗なので、次はネタバレ内に書いた諸事情とか関係なしの、普通の作品を読んでみたいと思う。
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