花よりもなほ作者:是枝裕和/ 原作:/ 66点
■小説慣れしている人にとっては予想外の展開
「花よりもなほ」は江戸時代末期を舞台とした歴史小説である。物語の主人公はとある剣術道場の長男であった。しかし江戸末期の世においては剣術の価値はかなり低いものとなっており、師範である父でさえも周囲の尊敬を受けているとは言いがたい、そんな時代であった。物語冒頭、主人公はワザと打たれて弟に痛くないように負けてみせる。彼は剣には興味がなかったのだ。 さて、ある日のこと、父は「将棋の待ったを許す許さないで揉める」という非情にくだらない理由で剣を抜いてしまい、あろうことかあっけなく切られてしまう。父はこの世をさろうという正にその時、主人公の手を握り、仇討ちをしてくれと懇願する。優秀な弟ではなく、兄を選んだのだ。
さて、自分と同じく小説を乱読してきた皆様なら、この後の展開は直ぐに想像が付くだろう。彼は何故自分がとうろたえる。そして弟に殴られる。父は貴方の本当の才能を見抜いていたのだと。涙し反省する兄。彼は修業を重ね、仇をついに見つけ出し、ついに本懐を遂げて、弟のまつ道場へ帰るのだった。 ……って展開にならないんだな、これが。僕と同じ想像をした方、残念でした。物語は良い意味でちょっと肩すかしな方向に予想を裏切り、意外な結末を迎えるだ。
以下、完全なネタバレ
ネタバレに書いたようにまぁ、不抜けた物語になってしまうのだが、不思議とこれが途中からいいなぁと思えるようになってくる。舞台となる街に住む面々の生活がギリギリなこともあって、「殺す物語」はいつのまにか「生きる物語」へと変貌しているのだった。
江戸末期を舞台として「よくよく考えたら不合理な『武士の普通』」の崩壊を描いた作品なのだろうと思う。びっくりするような展開があるわけじゃないけど、ほのぼのと面白い佳作です。
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