黄色い目の魚作者:佐藤多佳子/ 原作:/ 79点
■微妙な心の動きを丁寧に描いたヤングアダルト作品
「黄色い目の魚」は子供のころのとある体験が元で、絵を書くことが習慣化してしまった少年と、絵を生業とする叔父を持つ少女の心の動きを、時間をかけてじっくり描いた長編ジュヴナイル作品である。 さらっと長編と書いたが、実際には短編の集まりとして描かれている。またその原型となった「黄色い目の魚」という同タイトルの短編は、何と10年以上も前に書かれた作品だと言う。執筆時期の隔たりはそのまま主人公の時間経過となり、驚くほど長大な大作を読んだような満足感に浸ることのできる作品である。作者の心の中にゆるぎない何かが存在するからこそ成しえる偉業であろう。
以下、ネタバレ無しにこの物語の人間関係を語ることは難しいのでネタバレ内に書きます。かなり全面的にネタバレなので未読の人は読んじゃダメです。 作者は、ネタバレ内のような複雑なメンバを用いて、恋愛や芸術への思い入れや、父への愛情や、部活や友だちとの人間関係などを、その複雑さを感じないほどにやわらかな文章で爽やかに描き出す。この空気感とか雰囲気が抜群に素晴らしいのであって、ストーリーが云々という作品ではない。なので、本作の魅力を書評で伝えるのはとても難しいのだ。
ただ、僕はちょっぴりだけ絵を書くのが好きだったし、奥様は学生時代、他の人が作品を作るのを見るのが好きだったりした都合上、この作品の空気にすっぽりと飲み込まれてしまった。この物語の空気が好きな人は同じように飲み込まれてしまうんじゃないかなと思う。
んなわけで、書評を書く人としてはギブアップ宣言に近い書評になってしまったが、お勧め作品です。万人受けするとは思わないけど、爽やかに読める傑作だと思います。
おまけ そういえば、本作品では高校生の飲酒シーンが頻繁に登場する。この辺りの描写は女性作家ならではだなぁと思う。漫画でも小説でもそうだけど、男性の作品ではヤサグレたやつが酒や煙草に手を出すのに対し、女性の作品ではイケてる奴は頭の良い悪いに関係なく、オシャレに酒や煙草を嗜むようにできているのだ。主人公が簡単に「いたしてしまう」かどうかと合わせ、作者の性別を見分けるのには有効な手段であるといえよう。 Copyright barista 2010 - All rights reserved. |