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ブルー・ゴールド

作者:真保 裕一/ 原作:/ 67点

■映像で見たい作品

 

「ブルー・ゴールド」は水資源を扱う水道会社の民営化問題を物語の中心に据えた、企業ドラマ作品である。主人公は葵物産という大手企業の社員であったが、とある失敗プロジェクトの責任を負わされ、関連会社へと飛ばされる事となってしまった。しかし彼は関連会社の不穏な動きについて調査しろとの命も受けていた。そして彼がたどり着いた関連会社はちょっと異様な場所だった。社員は数名。しかも、スーツすら着ない一見してオタクと分かる社員や、ヤクザにしか見えない社長など曲者ぞろいのメンツばかりだったのである。

 

この冒頭の展開を読んで直ぐに、三浦しをんの「星間商事株式会社社史編纂室」を思い出してしまった。ただし設定こそ似ているし、その後の展開にも近い部分はあるものの、その結果として描きたかった物語外の部分が大きく違う作品のようである。

 

本作品、ブルー・ゴールドは冒頭に述べたように水資源の民営化問題を物語の中心に据えている。しかし、「水資源のどこが問題なの?」と思う人は多いことだろう。日本において長らく水は文字通り「湯水のように手に入るもの」だったからである。

しかし、日本が自分たちの使う水を結果的にほとんど輸入しているという事実を知る人は少ない。そんな事を言うと「飲料水もお風呂も水道から使ってるぞ!」と怒られそうだが、我々が使う水はそれだけではない。

例えば我々は食べ物の多くを輸入に頼っている。それらの作物や肉を作り出すためには大量の真水が必要となるのだ。もし仮に日本がお偉い方々の力説する通りに食料自給率を著しく向上したとすると、日本の水道代は10倍ぐらいに跳ね上がるだろう。他国から「滝」と呼ばれる程に流れの早い日本の河川は、長期間水を保持しておくには不向きなのだ。

その一方、日本の水は多くの場合、世界的に見てもとても綺麗で美味しい。それ自体が大きな商品価値を持つ程度に。しかしながら、日本人にはその意識がとても希薄である。結果的に中国等による日本の水源の買い占めがそこかしこで発生している事実に、みなさんは気づいているだろうか?意識の希薄さを良いことに、「田舎の土地だけど安く譲ってよ」的なアプローチで水源をガッツリ買い占められているのである。ぼやぼやしていると六甲のおいしい水のパッケージにmade in Chinaの文字が刻まれかねない。

 

そういう水を取り巻く状況を、日本の天下り問題や、大企業のビジネスの進め方などに絡めているのが本作品の魅力である。次々と明らかにされる事実が新たな謎を呼び、主人公たちが方々を行き来するテンションはDan Brownの天使と悪魔に似て面白い。

一方、複雑化した物語は自分のような鳥頭には把握しづらくて、読みとくのにかなり苦労した。人の名前を覚えるのが苦手な人はメモ推奨である。結末を導く為のキーワードが終盤に登場したりと、ミステリ読みをするにはややアンフェアな部分はあるものの、パワフルでなかなか面白い作品だと思う。どちらかと言うとドラマ向きだと思った。

 

そういえば、本作品によく似た映画がかなり近い時期にたまたま同じタイトルで公開されている。ちょうど水問題が重要視され始めた時代だったのだろうか。