カラフル作者:森 絵都/ 原作:/ 70点
■もっと早くに出会いたかった
カラフルは森絵都による傑作ジュヴナイル作品である。アニメ映画化がなされていることからもわかるとおり、非常に支持者の多い人気作品だ。うちの奥様もweb上の評判を目にして図書館で借りてきたのだが、確かに面白いんだけど、ちょっと出会うのが遅かったなという感じ。無論、大人が読んでも充分に面白いのだけれど、高校時代に読むことができていたら、倍は面白かったんじゃないかなと思う。
以下、物語の概要に触れます。ネタバレに厳しい方は注意。
カラフルの主人公は「僕」である。一人称が「僕」なので男性であろうと推察可能なだけの、正体不明の彷徨う魂だ。自分が誰だったのか、一切の記憶は失われている。 で、困惑する彼の前にプラプラという名前の胡散臭い天使が現れた(システム屋としてはC++にしか見えない)。天使は彼に「お前は悪いことをしたから輪廻転生から魂が外れて消滅する。でも抽選で当たったから特別にチャンスをやろう」と告げる。 女子にとってはどうか知らないが、男子にとっては「少年ジャンプにありがちな展開」という印象である。
さて、彼がどんなチャンスを貰ったかと言うと、とある人間の体を借りて人間として生活し、その間に「自分が誰でどんな罪を犯したのか」を思い出したら、もう一度輪廻転生の輪の中に入れてやろうと言うモノだった。「もういいや」と答える彼だが、神様の命令は絶対だからと強制的に挑戦させられる羽目になってしまう。 そんなこんなで彼が間借りすることになったのは、自殺して命を落とした少年の体だった。主人公の魂が入ることにより、少年は目覚める。当初こそ暖かい家族の愛に感動する主人公だったが、少年の周囲には少年が自殺を決行するに至るだけの「問題」が転がっていたのだった。
さて、主人公はこのトライアルをクリアできるのか、また彼はどんな罪を犯し、何が原因で死を迎えたのかがこの物語の骨子となる。骨子となるのだが、あまりにも簡単すぎませんか、これ。まじめな話、僕は15頁目ですでに結末に辿り着いてしまった。長大なる答えあわせの始まりである。
以下、結末が想像できる一文のため未読の人はクリック禁止。
ただし、すぐに結末に気づいてしまうから駄目かと言うと、全然そんなことは無い。この物語の良さはその骨子となる謎の部分ではない部分にあるように思うのだ。
以下、物語の深い内容に触れるため未読の人はクリック禁止。
ネタバレ内に書いたように、この物語はサンタさんの否定と同様、子供の幻想を全て打ち砕くための作品なのだ。 人間の「持つもの」は生まれた瞬間に大きく左右される。才能も見た目も家族構成も。そして子供のころ万能の守護者であった筈の父や母は、断じて聖人なんかではない。憧れる初恋の美人が清純だと思ったら大間違いだし、人生の選択肢は手持ちの現金によってあっけなく制限されてしまうのである。 そういう意図を理解した瞬間、この物語のできの良さがハッキリと実感できた。非常にうまいバランス感覚だと思う。
そんなわけでこの傑作ジュヴナイル作品。男子中高生および、女子小学生ぐらいにお勧め。なんで女子中高生がターゲット外かと言うと、このぐらいの現実はとうに理解済みだろうと思うから。だって、小学生がNANAとか読んで平然としてるんだもんなぁ……。
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