まほろ駅前多田便利軒作者:三浦しをん/ 原作:/ 89点
■映像化に向きそうな作品
まほろ駅前多田便利軒はとある便利屋を営む男の姿を描いた作品である。便利屋というとついつい探偵や殺し屋の隠れ蓑というイメージで見てしまいがちだが、本作品の主人公の営む便利屋は本当の便利屋である。犬に代わりに餌を上げて欲しい、換気扇を掃除してほしいなど、ちょっとした手間を省きたい客の依頼をちょっとした金額で解決する商売である。
そんな文字通りの便利屋を営んでいる男、多田啓介の元に、ある日中学校時代の同級生であった行天春彦が転がり込んだ。中学校時代は無口で何を考えているのか分からないような奴だった行天だが、再会した行天はやたらと口数の多い、そしてやはり何を考えているのかわからない男だった。行天のつかみ所のないペースにのせられ、啓介はなし崩し的に彼の居候を認めることになる。
以下、物語の構造について語ります。前知識なしに読みたい人はここでストップ。
この作品小さな事件の集合体で描かれる。そしてそれらは行天の常識はずれな行動によってもたらされる、ちょっと感動的な結末につながることが多い。この手の感動短篇集ってのは気を抜くと「ハートフルでゆるくて読んでいて恥ずかしい物語」になりがちなんだけど、本作品の場合そうはならない。主人公二人に明らかに暗い影が漂っているからだ。自らの不幸さが故に他人に親切にしてしまう、そういう行動原理が染み出しているが故に、ゆる恥ずかしさとは無縁の物語となっている。むしろ頑張りすぎずに楽に生きろよと主人公たちを心配するような気持ちになってしまう。
主人公たちが過去の傷をいかに乗り越えるのかという物語であるにもかかわらず、ここの物語自体は探偵物の面白さを実現しているため、読み味が非常に良い。主役二人の独特の空気に読者はついつい引き込まれることは疑いない。誰にでも安心してオススメできる作品といえよう。
ただね、三浦しをん作ではたまに思うことだけど、絶対女性読者の10%ぐらいはBL的妄想と共に読むよね、これ(笑)。
幸い、美男子二人で映画化されたようだし(個人的にはもう少し老けた雰囲気の人が良かったけど)、妄想好きの人もそうでない人も原作&映画を楽しんでいただければと思う。
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