ロマンス作者:柳 広司/ 原作:/ 87点
■物語中に流れる空気が素晴らしい
「ロマンス」は大正時代を舞台とした格調の高い作品である。いつもならここで「ホラー」とか「ミステリー」とか書くところだけど、あんまりそういう枠に囚われずに読んだ方が良い作品なのであえて書きません。
主人公の麻倉清彬は没落貴族の末裔。一応は子爵という位を持っており、働ずして裕福な暮らしができるものの、そのやや複雑な生い立ちにより、メインストリームから外れた人生を送っている。
そんな彼だが、頭脳は明晰でその生い立ちが故にルックスも悪くない。賭け事や撞球が得意だったり、とある技能に優れていたりと、典型的「万能型世捨て人」として描かれている。 こういう設定が昔のミステリ作品の主人公のようで、ちょっとワクワクしてしまう。今でこそ小説の主人公は多種多様な一般人が採用されがちになったけど、もともとこういう娯楽小説ってのは、その幻想性を高めるため、現実から離れたスーパーマンを登場させるものだったのだ。今のアニメの主人公がそうであるように。 例えば大人向けの漫画は既にリアル志向にシフトしつつある。娯楽はその面白さを追求した結果、芸術に到達し、最終的には難解になって廃れていく物なのだ。その点本作品は、芸術性と娯楽性のバランスが良くて、非常に気持ちよく読める作品だと思う。
以下、物語の簡単な流れについて説明。ネタバレ嫌いの人は注意。 清彬は物語の冒頭、ちょっとした殺人事件に出くわすこととなる。現場にいたのは古くからの友人である、多岐川嘉人であったが、彼はちょっとした機転でその場をうまく切り抜ける事に成功する。 以降、物語がミステリとして深みを増すのかと思うと、全く方向が違う。主人公の生い立ちや人間描写を通して、大正時代の華族の立場や天皇という存在の扱いなど、当時の空気を綿密に描写してゆく事になる。このシークエンスが蛇足になるのかと思いきやことのほか面白くて、この部分だけでもこの作品を読んだ価値はあったと思った。
以下、後半の展開についてネタバレ
トリックの為に作られたトリックなどは存在せず、それぞれの人間の信念による行動が謎を生んだという構造が素晴らしい。ミステリだとか歴史小説だとかいう垣根を飛び越えた、タイトルどおりロマンスを感じる作品。最初にタイトル見たときに「ダセぇ」と思ってすいません。実に素敵な作品でした。 Copyright barista 2010 - All rights reserved. |