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ビブリア古書堂の事件手帖〜栞子さんと奇妙な客人たち〜

作者:三上 延/ 原作:/ 82点
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価格:620円(税込、送料別)

■イージーだが心地良い

 

「ビブリア古書堂の事件手帖」は、とある古本屋の店主栞子とその周囲の人間たちの姿を描いた、ライトミステリ作品である。物語のテンションはあくまでライトノベルなのだが、文体は美しくやさしくて、自分のようなおっさんにも充分に読みやすい。一方キャラクタ設定は漫画的でリアリティを追求し始めるとボロが出てしまう。そういう楽しみ方をする作品ではないということだろう。

 

語り部である五浦大輔は、子供の頃のある出来事がきっかけで、本を読むことができない体である。マンガかよとか、授業はどうしてたんだとか、突っ込んではいけない。彼は就職先が決まらず困っていたのだが、高校時代にたまたま見かけた、ビブリア古書堂の店主「栞子」の事を思い出し、本も読めないのに古本屋でアルバイトをすることになる。ところが店主の栞子はとある事件のせいで入院中だった。大輔は自らの面接を皮切りに、古書の値段を尋ねるなどの理由で彼女の病室に頻繁に通うことになるのだった。

さて、そんな栞子は年上なのに童顔で美人で人見知りで他人とほとんど口が聞けないのに、本の話になると突然饒舌になるという変わり者だった。マンガかよとか、突っ込んではいけない。さて、そんな彼女は謎めいた客からの依頼など、謎めいた話を大輔から聞くと、類まれなる本の知識と優れた洞察力にて、現場を見ることすらなく、解決してしまうのだった。ここは本当にマンガかよとか、突っ込んではいけない(え、今までは?)。典型的な揺り椅子探偵型の構造がここに完成しているわけだ。京極堂に萌えが混じったと考えれば間違いない。ってか腐女子たちは京極堂にも萌えているはずなので、本質的には同じ構造の作品である。

 

以下、全体構造に関するネタバレ

 

閑話休題。さて何故この作品がこんなにもたくさんの人に支持され、本屋大賞にまでノミネートされたのかというと、それはひとえに登場人物の、そして作者の「本」に対する愛情が染み出しているからではないだろうか。本好きにスポーツや農業に興味をもたせるにはテクニックがいるが、本好きに本への興味をもたせるのは容易い。というか、最初から持っているのだから当たり前である。

それにこの本の良いところは、多数の過去の名作を登場させているにもかかわらず、殆ど過去の作品の内容に触れていない点だと思う。この手の作品は名作の気持ちのよい文章をサクサク引用して使いがちである。既読の読者には引用を読むだけで世界が広がるが、未読の人には意味がわからなかったり、ネタバレになったりするので、多すぎる引用は諸刃の剣である。その点本作は本への愛情を語ることはあっても、内容を語りすぎることが無い。その点は先日読んだ又吉直樹のエッセイに近いと思う。

 

登場人物は漫画みたいな人間ばかりだし、展開は王道過ぎてバレバレではあるけれど、本好きにはつい愛されてしまうという、小動物みたいな立ち位置。「まぁ、照れずにちょっと読んでみたら?」って感じの作品だ。絶賛はしないかも知れないけど気持よく読める、スウィートな佳作です。