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SOSの猿

作者:伊坂幸太郎/ 原作:/ 71点
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価格:1,575円(税込、送料別)

■現実と非現実の境界を曖昧にした作品

 

伊坂幸太郎の作品には「陽気なギャングが地球を回す」などに代表されるような、独特の台詞回しのキャラに牽引されるテンポの良いタイプの作品と、「オーデュボンの祈り」に代表されるような、現実と空想が入り混じったかのようなタイプの作品が存在する。本作品は後者タイプの佳作である。

 

本作品は2つの物語が交互に語られる形で綴られる。一方の物語は悪魔祓いを副業としている青年の話である。彼はイタリアに滞在していた際に、とある神父から「悪魔祓い」の技術を教えてもらい、日本に帰ってきてからはそれを副業としていた。久しぶりに伯母と会って話を聞いた所、彼女の息子が引きこもりになってしまったらしく、彼は伯母の息子の元へ悪魔祓いに行くことになる。

もう一方の物語はあるソフトウェア開発会社の品質管理部の男の物語である。証券会社の社員が株式を売却するための情報を入力する際に、値段と株数を逆に入力してしまうというミスを犯し、会社は約300億円というとんでもない額の損害を被ることとなってしまう。主人公の男は今回の問題が単なる入力ミスなのか、それともソフトウェアに何らかの欠陥があったのかを調べるために、ミスを犯した社員の元を訪れる。

 

上記のような概略を読むと、悪魔祓いの物語は胡散臭い話に、品質管理部の男の話は現実的な話に思える。しかし物語を読み進めるにつれ、何を信じて良いのかわからなくなり、物語に共通して登場する「猿」の意味を理解したときに、もやっとしていた視界がパッと広くなって物語の全貌が明らかになる構造である。

 

もやっとした世界観は好みが分かれそうだが、個人的には結構好きなジャンル。ただ、読後の快感のような物が足りない気がする。面白いけど伊坂幸太郎作品の中でのお薦めって程ではないかな。