サイト内検索:  

巨船べラス・レトラス

作者:筒井康隆/ 原作:/ 71点
【送料無料】巨船ベラス・レトラス

【送料無料】巨船ベラス・レトラス
価格:1,200円(税込、送料別)

■文壇メタフィクション

 

「巨船べラス・レトラス」は仮想世界と現実が入り乱れる、筒井康隆らしいメタフィクション作品である。物語の大筋は、「ベラス・レトラス」という雑誌に連載中の作家を中心とした様々な作家による文学論で構成される。

 

「ベラス・レトラス」という雑誌は、とある酔狂な男が「とにかく前衛的な作品を集めたい」との思いで創刊した、異色の文芸誌である。普通作家というものは、自分がやりたい文学的挑戦と、商業的に売れるであろう物語性を天秤にかけ、新人であればなるべく売れるように、大作家であっても編集部に怒られないレベルに作品レベルを調整し、執筆を行うものである。ところが「前衛的であること」が推奨されるという「ベラス・レトラス」が創刊され、作家たちは好きなだけ文学的挑戦ができるようになったのだが、今度は「何を書いても普通な気がする」というジレンマにより、物語性を放棄した意味不明の作品しか書けなくなってしまった。芸人に「シュールなことを言って」と振っているようなものである。その結果、ちょうどアーティスト達が踊りながら絵を書いたり、爆発の結果を芸術と称したりして、誰も理解できなくなってしまっているのと同じ結果となってしまったわけだ。

 

ネタバレ云々というような作品ではないが、以降の展開についてはネタバレ内へ逃がしておきます。

 

上記ネタバレ内に語られたような理由により、物語は徐々にメタな方向へと突き進む。メタフィクション構造で描かれるのは、現在の文壇或いは出版業界に対する痛烈な批判である。

 

なお、結構ハッキリとしたネタバレになるが、あえて書いておきたいことがあるので、興味のある方は以下のボタンをクリック。

上記ネタバレ内の話は非常に恐ろしい問題である。デジタル化が進む今日において、小説等のデジタル化が容易である作品の著作権は、注意深く守られる必要がある。著作権侵犯はあくまで親告罪であるため、今の中国のことが笑えないぐらいの無法状態を招きかねないのだ。「日本人はマナーが良いから」と思っている人も多いだろうが、CDを人に焼いてもらったりすることに罪悪感を感じる人は少ないだろう。「それぐらいはOK」と思っているだろうが、中国人だってそう思っているのだ。つまりデジタル化が進んだ世の中では「それぐらい」が簡単に拡張されてしまうのである。

さて、そのような無法状態が引き起こされたときに、誰が痛い目を見るのだろうか。著者?もちろんそれはそのとおりである。しかし、著者以上に痛い目を見る人間を忘れてはいけない。それは読者である。作品を書くことによるメリットがなくなったとき、良質なコンテンツをうもうという著者はいなくなる。必然的に面白い物語など読めなくなるのだ。

だからといって、著作権を親告罪ではない、刑事罰にすることはもっての外である。それを実行すれば、言論統制とほぼ同じぐらいの大問題が発生する。故に、我々は「フェアトレード」を意識しながら、差し迫ったデジタル化時代を乗り越えて行かないといけないのだ。

【送料無料】人間の消失・小説の変貌

【送料無料】人間の消失・小説の変貌
価格:2,205円(税込、送料別)