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悪意

作者:東野圭吾/ 原作:/ 82点

■韜晦するミステリ

 

「悪意」は東野圭吾による、ミステリ作品である。本作品の冒頭で発生するのは、とある小説家の殺人事件である。正直大した事件じゃないし、大したトリックじゃないし、あっけなく犯人は逮捕されてしまう。「なんだこのオールドスタイルなミステリは、短編集なのか?」と思ってしまった。いや、言い換えよう。そう、思わされてしまったのだ。作者の計画通りに。

 

本作品は韜晦するミステリである。あたかも面白くない話のフリをしているのだ。しかしそれがミスディレクションであり、作者の思惑に嵌められたのだと気づいた瞬間、ページをめくる手が止まらなくなる。凄いなこれ。

ミステリを分類する時にフーダニットとか、ハウダニットだとかいう分類があるが、本作品をそれで分類するとホワイダニットになる(who done it, how done it, why done itの事)。早々に犯人は明らかになるのだが、何故殺したのかが解らないという物語だ。

 

おそらく読者は何度も何度も騙される事になる。物語が終盤に差し掛かると「俺の涙を返せ」あるいは「俺の怒りは何だったんだ」と、唖然とさせられる事請け合いである。

 

この物語で気に入らなかった点といえば、「シャンペン」ぐらい。何が気に入らないって、そこは「シャンパン」だろう。え、どうでも良い?うん、そうなんだけどね。安物ならともかく、高級な奴を登場させた時にシャンペンって表記は正直萎える。シャンパーニュ地方の方々もさぞお嘆きの事だろう(どうでもいいか)。

 

閑話休題。ミステリ慣れした人ほど気持ちよく騙される良作。わざとつまらない物語のフリをしている冒頭で読むのをやめてしまわないように!そこだけは気をつけて。