サイト内検索:  

ストロボ

作者:真保裕一/ 原作:/ 84点

■タイトルと装本以外は素晴らしい

 

真保裕一といえば「ホワイトアウト」の映画化で一躍有名になった作家である。自分もホワイトアウトしか読んだことがなく、本作品「ストロボ」が氏の二作目となる。ちなみに真保裕一とかいて「しんぼゆういち」と読む。自分はずっと「まほゆういち」だと思っていた。図書館で探すときには注意しよう。

 

「ストロボ」はとある写真家の人生を描いた作品である。面白いのは、それを時系列に描くわけではなく、約10年程度の間隔でどんどん遡るようにして描いている点である。って、これの直前に読んだ「私の男」と同じ構造である。こういう偶然の一致にはいつも驚かされる。

ちなみに僕は「歴史の授業は近代から初めて、reason whyを追求する形で過去に遡るのが良い」と思っている。詳細はどこかで論じるとして、本作品を読むと僕の考えに賛同いただけるのではないかと思う。読み終わったらちょっとだけこの話を思い出して欲しい。

 

主人公は若いころに一度、世間の話題になるような尖った写真集を作り、一躍有名になった男である。有名になったことから自分のスタジオを持つこととなり、今のうちにたくさん仕事を確保しないとと、えり好みせずに仕事を受けた結果、スタジオは大きくなったものの、昔のような尖った仕事はできなくなりつつある。

そんなちょっとした不満を持った男の姿が描かれれば、当然のように次に待っているのは「新鮮な若者との出会い」であり、「昔のような情熱を持って尖った作品に打ち込む」という展開であろう。が、本作品はそういうわかりやすい方向には走らない。

 

以下、本作品のおおまかな構造に関する言及。ネタバレに厳しい人はブレーキ。

 

ネタバレ内に書いたように、古いアルバムを眺めながら、懐かしい昔話を語るような、穏やかで温かい良作品だと思う。唯一の欠点は冒頭に書いたように「ストロボ」というタイトルと、黄色と黒を貴重としたやたら過激な装丁である。僕はこの想定とタイトルから、もっとスキャンダラスな報道カメラマンなどの物語を想像した。それを想像して本を手に取った人にも、逆にそれを想像して本を手に取るのを辞めた人にとっても、非常に不幸な事だと思う。もっと穏やかなタイトル、穏やかな装本であればたくさんの読者に喜んでもらえたのではないだろうか。実に惜しい。