私の男作者:桜庭一樹/ 原作:/ 85点
■男が女に求めるもの
自分にとっての桜庭一樹というのはアニメ「Gosick」の原作者という存在であり、Gosickというアニメが「深夜にやっている、ホラー10%、ミステリ40%、萌え50%の作品」という印象のものであることから、ライトノベル作家なのだろうと想像していた。本作品もいつ萌え始めるのかと待ち構えていたのだが、予想外の文学性を備えていてちょっと驚いた。
物語冒頭の章における主人公の「花」はとある会社の受付嬢として勤務する、派遣社員である。彼女は結婚式を直前に控えていた。一見すると幸せいっぱいの物語が展開されそうだが、一人読者を困惑させる人物が登場する。それは彼女と二人暮しをしている「父」である。父は独特の風体の男である。細くて背が高く、髪は長髪で、いつも薄汚れたスーツを身にまとっている。また、一見無愛想に見えるが、娘に対しては異常なまでの愛情を示してみせる。本作品は彼女の父が一体どんな男であるのかを描いた作品である。
本作品はミステリ的な要素も持ってはいるのだが、あくまでも描写は文学的で、一度読み始めるとページを捲る手が止まらない。さすがは直木賞受賞作品というべきか。 父がどういう人間であるかを描くというと、花が幼い頃の父の姿から時系列に描く作品が多いのだが、本作品の場合は舞台を異にしながら、少しずつ昔の話へと遡るようにして物語がすすむ。その過程で、読者の「父」への評価が何度も何度も覆される構造が素晴らしい。
父と花の関係はなかなか重い物なのだが、作品を読み終わった時に読者の心に残るのは、ただ漠然とした肉親の間の「愛」のイメージである。それは善悪を超越して、ただ密に色濃い。血は水よりもずっと濃いのだ。
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