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銀齢の果て

作者:筒井康隆/ 原作:/ 64点
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■老人版バトルロワイアル

 

「銀齢の果て」は筒井康隆の手により原題の日本、いや世界が抱える高齢化の問題に鋭いメスを切り込んだ、感動的文学作品...なんかでは全然ない。バトルロワイヤルでは中学生同士が殺し合いを繰り広げたが、銀齢の果てではその名の通り、シルバー世代すなわち70歳以上の老人同士が殺し合いを繰り広げる。

 

筒井康隆と言えば、ハチャメチャSFやスラップスティック作品の大家であり、不謹慎なブラックユーモアには定評があるものの、最近は歳相応に落ち着いて、純文学なども増えてきたなぁ…と気を抜いていたら、久しぶりにやってくれましたよ、コレ。2006年の作品って事で完全にバトルロワイヤルのパロディであることは疑いない。さらに言えばタイトルの「銀齢の果て」も、黒澤明脚本・谷口千吉監督の「銀嶺の果て」という作品のパロディである。

実はバトルロワイアルを見てないので(映画の紹介番組中で「私と○○が最後に生き残ったときに〜」とのたまった馬鹿女優がいたせいで、一気に見る気がなくなったのだ)、本家の設定ではどう理由付けされているのかは知らないが、本作品の場合は、高齢化社会自身がその理由となっている。若者が高齢者を支える経済的負担を解消するため、各エリアごとに殺し合いをやらせる。エリアに1人だけが生き残る権利を得られ、その後そのエリアでは40年間バトルは行われないというものである。

 

この先はもう、完全にBRのそれの展開となるのだが、やっているのが老人であるがゆえに、登場人物たちの行動もやや異なる。最初から殺し合いをしてまで生き残る気力のない奴、そもそも7割方ぼけている奴、経済力にまかせ武器を買い集める奴。また、老人だからといって色恋沙汰が登場しないわけではなく、結果としてセクシーな描写が、いや、酸鼻を極める描写が続くこととなる。

 

この不謹慎な物語がでは何を描こうとしているのかというと、まぁ、多少はあるのかも知れないけれど、多分何も目指してないだろう。筒井氏がこの物語に詰め込んだのは純粋に不謹慎な笑いと、そして人間という存在への筒井氏らしい形での愛情ぐらいだと思う。

 

ただ、最後の主人公のセリフに、ぎゅっと心を掴まれた。いつか自分も同じ感想を持つ日が来るのかも知れない。