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ゲルマニウムの夜

作者:花村萬月/ 原作:/ 85点

■キリストの誕生を見ているかのようだ

 

『ゲルマニウムの夜』は花村萬月による芥川賞受賞作品である。これまで本を読むときに各賞の受賞作品であるか否かを気にしたことなど無かったのだが、今後は意識することになるかもしれない。それぐらい衝撃的な作品だった。

 

本作品の主人公は『朧』と言う名の青年である。物語は薄暗い闇の中での白という犬との交流のシーンから始まる。読者は一人称での語り口調で彼が圧倒的な知性の持ち主であることに気づかされると同時に、彼の異様さにも気づかされることになる。先程何気なく交流という言葉を選んだが、彼の交流には親子のような愛情と激しい暴力が同居しているからである。

 

この物語の舞台はとあるミッション系の孤児院である。主人公の朧は少年時代をこの孤児院で過ごし、一度は外の世界に旅立ったものの、殺人を犯してしまい、身を隠すために舞い戻ってきたのだった。

こんな説明を書くと、『可哀想な身の上の少年が秘められた暴力性をつい爆発させてしまい、後悔しながら生きる物語』を想像してしまうが全くそんな風にはならない。彼には欠片ほどの後悔もないし、境遇を恨んだりもしていない。彼は冒頭にて説明したような性質により理知的に、哲学的に周りを分析しつつ、同じ冷静さを持って理不尽なまでの暴力を周囲の人間に振るう。一見すると単なるバイオレンス小説である。

 

しかしこの作品、冒頭のこのバイオレンスな雰囲気で諦めることなく読み続けると、驚くほど面白いのが分かる。

以下、完全なネタバレのため注意

 

ネタバレ内にいろいろと感想を書いたのだが、この小説はぶっ飛んで凄いと思った。さすがは芥川賞受賞作品だけのことはある。と同時に、芥川賞作品は年に一冊ぐらいで十分だなと思った。仕事で疲れた帰り道に読むような本じゃないよ、これ。エネルギーが有り余ってて、自分の文学的理解力に自身がある方はどうぞ。自分には両方の意味で若干荷が重い作品でした。

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