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虚人たち

作者:筒井康隆/ 原作:/ 89点
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■虚構の世界に住む虚人たちの視点で描かれたリアルな世界

 

虚人たちは筒井康隆らしい実験小説の一つである。非常にチャレンジャブルな作品であるがゆえに読者を選ぶ作品であり万人受けはしないと思われるが、個人的に一押し作家なので、敢えて高めの点数を採用している。

 

本作の主人公は虚構の世界の住人である。などと書くと「小説なんだから当たり前だろう」と怒られそうだがちょっと待って欲しい。正確に言うと「虚構であるフィクション作品の中に登場する人物が、我々と同じように人間としての感情を持っており、かつ自分たちが虚構内の存在であることを理解している」という前提で描かれた作品なのだ。

例えば、冒頭から主人公は時計の時間を見て困惑する。それが朝7時なのか夕方の7時なのか分からないというのだ。どういう事かというと、小説においてそのような「些細なこと」あるいは「まだ分からなくて良いこと」は明確に書かれない。「山本がふと時計を見ると7時を過ぎていることに気づいた」のように物語は見せたい部分から、見せたい分だけ記述される。もしこの山本が実在の人物だとすると、彼は時刻が7時であることは理解しているが、朝なのか夕方なのかは曖昧なままであるという奇妙な状況にあることが分かるだろう。それどころか、自分が山本である事は知っているものの、本当に「彼」なのかどうかも分からない。

無論取り扱っている虚構の不思議はそれだけではない。本作品中では様々な「小説という娯楽形態」を楽しむための約束事を徹底的に破壊した上で、虚構の中で虚構の人物としての責任を全うしようとする男の行動を描く。スラップスティック的要素を秘めているもののあくまで安易なドタバタ方向には走らず、かといって単なる実験小説や文学の方向にもとどまらず、なんとも言えないバランスの作品となっている。

 

正直万人におすすめできる作品ではないのだが、騙されたと思って一度読んで見る価値がある。世の中にはノンフィクションしか読まない人も多く、小説を読むことが日常に溶け込んでいる人というのは圧倒的な少数派である。自分たちがいかに小説作法とでも言うべき型にはまって文字を読んでいるのかを再認識してみるのも面白いんのではないだろうか。

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