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文学部唯野教授の女性問答

作者:筒井康隆/ 原作:/ 92点

■スピンオフ小説...なのか?

 

「文学部唯野教授の女性問答」は「文学部唯野教授」という長編小説のスピンオフ作品である。ただしこれ、小説という形式は取っていなくて、「読者からの質問に回答する文学部唯野教授」というHow to本や実用書のスタイルで描かれている。森博嗣の「臨機応変・変問自在」によく似たスタイルの作品ではあるものの、大きく違うのは、回答者が筒井康隆本人ではないところ。実際に読者から質問を受け付けたのかどうかは知らないが、回答者が唯野教授って時点でギリギリフィクション作品=創作小説として扱って良いのではないかと思う。そのあたり水柿教授シリーズがエッセイでないのと同じである。

さて、そのあたりの建前はさておき、読者の疑問に作家が答えるという非常によく似たスタイルの両作だが、その答え方には大きな違いがある。森博嗣のそれが「相手の質問を切って返す」のに対し、筒井康隆のそれが「相手の質問を受け止めた上で丁寧に返答する」点である。わかりやすく言えば、森博嗣が切れの良いカウンターパンチで戦う宮田くんなら、筒井康隆は真っ向勝負で打ち勝つ一歩のような戦い方なのだ。あれ、分かりやすくなってない?

 

例を上げてみよう。例えば、両者に「神は存在しますか?」と質問したとする。「臨機...」に同じ質問があったかどうかは記憶していないが、森博嗣なら多分こんな返答を一言返すであろう。「何を持って存在すると定義するかによります」

一方の筒井康隆は本作品中で似た質問に対し、次のように回答している。まず、神の存在を最初に証明した人物としてアリストテレスの名前を上げている。そして彼が考えていた神学について自然学との対比を行いながら全力で分かりやすく解説し、最終的に神が「目的因」によって我々を動かしている。したがって存在すると言えると結論づけている。この間なんと12ページ。

森博嗣の返答を読んだ人の1/3は「なるほど!」と目が覚めたかのように納得し、2/3は「そんな答えじゃなくてさぁ!」と憤る事になるだろう。一方、筒井康隆の返答を読んだ人は全員納得せざるを得ない状況に追い込まれる。正確にいうと反論できないけど納得できない状況に追い込まれる。さてどちらが親切な回答だろうか(笑)。

 

僕は人に正論で真正面から論破される事が好きなので、あえて筒井康隆に1票を投じたい。この作品中では他にも「ノストラダムスの大予言」に怯える相談者に「先駆的了解」の考え方を説明することで、むしろ素晴らしいことだと褒め称えたりと、実に唸らされる回答が盛りだくさん。理屈が好きな人なら必読の名書です。