プリンセス・トヨトミ作者:万城目学/ 原作:/ 66点
■面白いけど物足りない
プリンセス・トヨトミは書いた作品がどんどん映像化されることで有名な、万城目学の作品の一つである。本作品も確か映画化されたんじゃなかったっけ。
本作品には主人公と呼べるメンバが2組存在する。一方は会計検査院の調査官の3名。もう一方は中学生の男女2名。 前者3名は非常に特徴的である。リーダー格の松平は、超エリート。頭脳明晰でルックスも良くて、グイグイ引っ張っていくタイプで、1日にアイスを5個以上食べる。ヒロインである旭はフランス人とのハーフで背が高くスタイル抜群の美女であり、かつ、頭脳も抜群。残りの一人は...チビデブで軽率で、子どもっぽいけど、ミラクルを起こすタイプ。まぁどんな働きをするのかは直ぐに想像がつく。 一方の後者2名も青春小説の主人公としてはなかなかの個性の持ち主だ。一方は活発で男勝りな女の子。もう一方は、自分の心は女の子なんじゃないかと考え始め、セーラー服を着て登校することを決意した少年である。
上記メンバが複雑に絡みあいながら、大阪城に秘められた大いなる謎が明らかにされていく。そしてその謎は明らかになるにつれ、とんでもない規模になる。と言われて大抵の人が想像する規模の10倍20倍は規模が大きいのだ。当然規模が大きいぶん、「いやいや、そんな事はあり得ないだろ」と突っ込みたくなるのだが、なんだか鵜呑みにされてしまうあたりが万城目学の文章の凄いところである。このあたりは「鹿男あをによ」や「鴨川ホルモー」と同じでさすがだな、と思った。
しかしだ。ここまで個性的なメンツがここまでとんでもない事件に巻き込まれているにもかかわらず、なんだか熱中度が低かったのだ。本作品は氏の作品にしては珍しく、登場人物が多く、いわゆる「ト書き」の部分も長い。その結果いつものテンポの良さが失われると同時に、物語全体の流れがぼんやりしてしまったように思う。 せっかくの個性的な登場人物が揃っているのに、彼らの個性が生かし切れていないのももったいないと思う。検査員メンバ登場のシークエンスは最高に面白かったし、いじめられながらもセーラー服登校を続けるあたりもかなり面白かった。にも関わらず、その後の解決編が主人公不在で進んでいる感じでどうにもピンと来ないのだ。 特にセーラー服少年の個性が生かしきれていないのが致命的。 以下非常に重要な箇所についてのネタバレなので未読の方はクリック禁止。 ネタバレ内に厳しいことを書いたが、その一方で「この作品も映像化したらかなり面白いのでは?」という思いも拭い去れない。でも、小説単体として読む文には「鹿男」には遠く及ばないように思うのだ。
ってなわけで、折角の面白い設定満載の作品の割には「良作」に留まったイメージ。ちょっと惜しい。
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