塩の街作者:有川 浩/ 原作:/ 74点
■デビュー作にして完成度高し(ただし条件付き)
塩の街は有川浩のデビュー作である。当作は第10回電撃ゲーム小説大賞を受賞した作品であるが、実は編集部の人間は彼女に大賞を取らせたくなかったのだという。なぜかというとこの賞で大賞を受賞した作品は、そのまま新書版での出版が決定しているから。本作品の素晴らしさに魅せられた編集部の人間は、後でハードカバーで発売したいという思いから、大賞を取らないよう願っていたのだという。
さて、そこまで編集部が入れ込んだ本作品はと言うと、本格的なSF色の強い、それでいてとても文学的な情緒にあふれた良作品である。物語の舞台はとある理由により「塩の街」と化した世界。そこでは社会の基盤が半ば崩壊しており、人々の道徳はなくなり、弱肉強食の世界と化している。漫画で言えば北斗の拳、小説で言えば日本沈没のような、世紀末的舞台設定である。
そんな世界の中、元自衛隊員と女子高生がぎこちない共同生活を行なっている。彼らこそがこの物語の主人公だ。彼らはぎこちない生活の中、互いを思いやり、やがてお互いに心ひかれていく。甘い恋愛物語のと平行して、世界がどうしてこのように変わってしまったのか、どうすれば元の世界に戻れるのか、SF的ストーリーが進む。途中「グレー」で個性的なキャラクタの登場したあたりから、甘くない設定にグイグイ引きこまれ、あっという間に読み終わってしまった。
....のだが、本作品を楽しむには1つ条件がある。ハードカバーで読む場合、長編を読んだら、一休みすべきだということ。続きがあまりにも重い...のではなく、甘いのだ。
以下、若干ネタバレ有り。
と、ネタバレ内に散々な事を書いたが、本作品を読む場合、「ハードカバー版」を手にして、「本編」だけを読むのがベスト。どうしても続く短篇集が読みたいなら、1週間ほど本作のことは忘れ、本編の感動を忘れかけた頃に手にしたほうが良い。そうじゃないと本編の良さまで殺してしまいかねない。何事も程々が肝心ってことで...。
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