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神様のカルテ

作者:夏川草介/ 原作:/ 92点
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■幸せとは掘り起こすもの

 

「神様のカルテ」といえば最近ドラマ化されたばかりの超有名作品で、ミーハー嫌いのbaristaとしては...(略)...素晴らしい!これは良くできている。有名になっただけのことはある繊細な出来の作品だった。

 

神様のカルテの主人公、一止(いちし)は、とある田舎の病院の内科医である。勤続五年目の彼は若いとはいえなかなか優秀な男であったが、変人扱いされていた。それは彼が夏目漱石の熱狂的なファンであり、夏目漱石作中の人物であるかの様な口調で話す癖があったからである。

 

上記のようなちょっとファンタジーな設定により、おちゃらけたムードを想像して読み始めたのだが、内容はいたって真面目な医療ドラマである。描写が穏やかであり、文体が流麗であるがゆえに、その激しさが緩和されているものの、当直で眠る間もない医者の姿は、日本の医療の現実を等身大で描いている。

知人に外科医がいるのでよく分かるのだが、医者の生活は一般人とは異なる。そこに一般的な常識は通じず、人生の殆どは医療の前に投げ出される。自分はSEであり、担当する4〜5のシステムのトラブル対応に追われると、容易く軽いパニックに陥るが、彼らは時に一人で数十人もの患者の担当医となり、彼らの身体のトラブル対応に追われることとなるのだ。年収がどれだけ増えたって普通なら選ばない職業であり、その常識を超えることのできたものだけが就くことのできる、特殊な職業なのである。

 

本作を最後までよみ通して思ったのは、この夏目漱石口調は、大々的「ぼのぼの効果」を狙ったものだったのではないかということ。やや文語的な古めかしい口調は、生死を取り扱う物語の壮絶な部分を緩和し、また、ともすれば歯の浮くような、直接的な感動の描写を緩和しているように思う。そうでなければ、物語中の「万歳三唱」など、普通の現代劇に登場させた瞬間に白けきってしまうはずだ。

文庫版のあとがきに獣の奏者の作者である上橋氏が語っているとおり、本作品は厳しすぎる現実を理解した上で、上記のようなテクニックを駆使して表現をやわらかくし、美しい物語になるようあえて調整して創り上げられている。それは現実から目を背けているということではない。現実の良い面も悪い面も理解した上で、その中の良い部分を我々読者のわかりやすい形で掘り起こして見せてくれているのだ。

 

同様にこの作品を「医療の現実を描くには甘い」と捉えるのか、「医療の現場の光と影を優しく描いた」と評価するのは読者の掘り起こし方にかかっているだろう。少なくとも僕は後者として好意的に捉えたいと思った。

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