ヴォイド・シェイパ作者:森 博嗣/ 原作:/ 93点
■無と有
森作品をほぼ全て読んでいるが、最近の作品は少しずつ「死」の取り扱いが変化しているように思う。これは「もえない」あたりからハッキリと感じた傾向だが、それが始まりではない。そもそもS&Mシリーズでは、殺人がいけない理由をもう一度考える機会がが与えらるなど、どちらかというと科学者視点での死を取り扱っていた。そこでの死は記号化されがちで、主人公である萌絵は死の恐怖を知らない。あるいは忘れている。 物語がGシリーズへと進み、×シリーズが登場すると、これまで森博嗣が避けてきた「感情」が殺人に頻繁に盛り込まれるようになった。一方で、死をもっとも軽く取り扱う仕組みである「宗教」も登場している。 森博詞がもっとも書きたかったというスカイ・クロラシリーズは、永遠とあっけない死を同所的に描いた作品だった。読んでいるうちに、生と死の価値をゆるがされそうになる作品だったのだ。
さて、本作品ヴォイド・シェイパはというと、実は非常にスカイ・クロラに近い立ち位置である。パッケージデザインが酷似している(雲海と山稜の違いはあれど、見た目はそっくり)ことも、決して偶然ではないだろう。
...とまぁ、森作品を読んだ事のない人間には良くわからない説明ばかり続けてきたが、森博嗣がなぜここまで死を描くのかといえば、おそらく彼が生を描こうとしているからだろうと思う。
ところで、以下は戯言で読む必要が無いため、ネタバレじゃないけどネタバレ内にしまいます。
閑話休題。本作品は、なんと森作品では初と思われる、時代劇物である。いや、おそらく。具体的年号も何も登場しないため、実際の所は良くわからない。師匠を失った「ゼン」と呼ばれる主人公が、師匠の残した命の通り、市井に下りて様々な事を思惟する作品である。 いつもの事ながらなんとも巧妙だと思ったのが、タイトル。以下ネタバレなので読み終わるまではクリック禁止。
深いタイトルに深い物語。一般受けはしないかもしれないけれど、自分は心をギュッと掴まれた気がした。なお、評価点は贔屓してます。だってファンなんだもん。 Copyright barista 2010 - All rights reserved. |