卵の緒作者:瀬尾まいこ/ 原作:/ 85点
■美しい詭弁
坊ちゃん文学賞を受賞したという、瀬尾まいこのデビュー作。タイトルと同じ「卵の緒」を含む中篇2作を収録している。まず思ったのは、日本語の美しさ。簡便なのに何気なく美しくて、思わず声に出して読みたくなってしまう魅力を秘めている。意外とディープな話題に触れた作品であるにもかかわらず、この読後の爽やかさは貴重だと思う。
【卵の緒】 自分は拾われた子供なのではないかと疑う息子と、それをあしらう母の話。この母が本当にいいキャラクタで、子供のあしらい方が天才的。嘘を言うのではなく、切り返しのアイデアの上手さで息子が見事に黙らされてしまう。これから子供が生まれる身としては、切り返しのテクニックを参考にしたいぐらい。 その後どのような展開になるのかについては、実際に皆さんに読んでもらう事として触れないが、とにかくお母さんの「愛情」の示しっぷりが凄い。結局の所、子供への素敵な返答は、テクニックではなく愛情によって形作られるものなのではないかと思う。
【7's blood】 ある日から同居する事になった、腹違いの弟との生活を描いた作品。歳の離れた弟は、とても空気の読める弟だった。本心をなかなか見せようとしない、「計算された」弟の姿に、当初なじめずにいた姉だが、少しずつ彼の事を理解し始める。 なぜ弟がそのようなキャラクタになったのかを理解したときに、とてもとても悲しい気分になった。彼の優しさは優しさなのだろうか。読んでいる自分もわからなくなってしまったのだ。しかし、姉が彼を受け入れるころ、自分にも彼がどういう人間なのかが理解できた。この手の人間関係を扱った作品の中ではピカイチ。
両作品を読んで思うのは、環境は人を変えうるけど、決定的なものではないのだな、と言うこと。厳しい環境を力に変えられるかどうかは、その環境に生きる人間の心にかかっているのだ。
※註:といっても環境に負けた人間を非難するものではありません。勝てない環境は多い。
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