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イキルキス

作者:舞城王太郎/ 原作:/ 84点
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■汚物で作った処女像のように美しい

 

とてもエキセントリックな文体で読者を選ぶ舞城王太郎の中篇3作を収録した一冊。王太郎ファンなら迷わず読むべし。一方、この文体に我慢ならない人は手を出さない方が吉...なのかもしれないが、まずは読み終わってから考えても良いのではないかと思う。自分は久しぶりに彼の作品を読んで「うーん」と拒絶反応が出たのだが、読み終わったころには大いに感動してしまった。やっぱり凄いわ、この人。

 

過去に二葉亭四迷は「言文一致体」を唱え、当時の文壇に叩かれた。舞城王太郎の文体は「第二次言文一致体」とでもいうべき、下品だが非常に自然な形である。彼の文体は酷く乱暴で下品な口語体である。しかしそれは日本語が下手と言う意味では断じて無くて、むしろその正反対だ。どんな流麗な文章だって書けるであろう天才的な文書力を持って、力いっぱい下品で自然な主人公目線での一人称で、小説を書き綴っているのである。その凄さは声を出して読んでみればわかる。また、「端折る」シーンでの文字数に対する情報量の多さは特筆物であり、他の作家の追随を許さないと思う。

 

彼の凄さに共感できない人は一度、「鼻くそ」「う○こ」「ホモ」「キン○マ」などの言葉を1パラ1回ずつ出して、芸術作品を書いてみると良い。きっとうまく行かない。しかし、舞城王太郎にはそれが出来るのだ。

 

【イキルキス】

クラスの女子が次々に死んでしまい...という、ホラーなのかミステリなのかわからない状況から物語は始まる。理由に納得のいく説明など求めてはいけないのは舞城ファンなら良くわかっている事だろう。大人しい読者は、小汚い若者言葉の連発や、ビックリするようなぶっ飛んだキャラクタの連続に眉をひそめるだろうが、実はこれ、れっきとした青春小説の形を成している。多分、読後の感覚は村上春樹作品に近い。

 

【鼻くそご飯】

主人公がぶっ飛んでいて、性描写からスタートする物語にいきなり多数の読者がおいていかれると思われる。しかしこれ、芸術家、あるいは求道者の半世紀を描いた作品として捕らえると、リアルかつスピード感があって、無駄のない凄い作品だと思う。この作品の一番凄いなと思ったところは、主人公がある男を絵に描こうとして、その見た目を説明するシーン。人間の顔を文書で説明して、こんなに長く、それもこれほど独創的かつ幻想的な表現の出来る人が他にいるだろうか。

 

【パッキャラ魔道】

主人公が高速道路の事故に巻き込まれた際の、父の活躍のシーンから始まる。どんなSFかとおもったら、複雑な家庭環境を取り扱った、家族物のジュヴナイル小説として着地したのには驚いた。内田春菊とか、西原理恵子とか、そういった作家の作風に近いかな。もうちょとハートフルだし、実はエキセントリックな描写の割には、正統派の作品だと思う。

 

 

ってなわけで、読み終わった際の感想は「スゲェ」だった。他に並ぶもののない、オンリーワンの作家だと思う。圧巻。彼の作品に価値を見出せなかった石原慎太郎の脳は「すでに硬化し始めている」とおもう。