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謎解きはディナーのあとで

作者:東川篤哉/ 原作:/ 66点
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価格:1,575円(税込、送料別)

■失礼ながら、編集者の目は節穴でございますか

 

「謎解きはディナーのあとで」は全国書店店員が一番売りたい本を決めるという賞である、「2011年本屋大賞」にノミネートされ、一躍有名になった本格ミステリ作品である。「失礼ながら、お嬢様の目は節穴でございますか」という台詞が帯にあるとおり、お嬢様刑事と口の悪い執事の掛け合いが楽しい、ロッキングチェアー・ディテクティブ(揺り椅子探偵)型のミステリ作品である。ただこれ、駄目な人には駄目だろうなと思う。

 

ミーハー作品嫌いの自分がなぜこの本を手にしたかを説明しておこう。まず奥様のお姉さんが「買ったけど読まなさそうだから」と我が家に放置。それを奥様が読んで、「単なるキャラ萌えでいまいちかも」と机に放置。通勤のお供にと読み始める事になったという経緯である。とはいえ、奥様が駄目という本が自分には面白いことも多いので(自分の方がノンポリなので)、なるべく先入観に囚われないよう、気をつけて読み始めた。

が、1ページ目でいきなりゲンナリした。一旦本を閉じたぐらいだ。なにが原因かというと学芸会の寸劇のような、不自然な会話である。実際の台詞を引用してみよう。玄関の呼び鈴が鳴り、ドアを開けるとそこに刑事が手帳を持って立っている。その状況下で男が発した第一声は、こうである。

「刑事さんが僕になんの用ですか」

突っ込みどころ満載。そう思わない人は、自分とは文章の好みが合わないだろうから、以下の解説はおそらく不快なだけ。続きを読まずに戻ってください。

 

まず「刑事さん」が気持ち悪い。刑事とか巡査とか警部とかを使い分けるのは、実際に警察機構内で働いている人間ぐらいで、一般人がそれをわざわざ使い分けて会話に用いる事は考えにくい。無いとは言わないが不自然だ。そいつがスリの常習犯で何度もお世話になっているという設定なら話は別だが。

「僕に」も野暮ったい。刑事二人が話しかける対象が自分ひとりしかいないのに、わざわざ「僕に」と言うか?「××さん、あなた昨日○時に何をしていましたか」等聞かれた後なら話は別である。自分のアリバイを聞かれる意味がわからないから、俺は関係ないという気持ちを込めて、「『僕に』何の用ですか」と言う事もあるだろう。しかし刑事はまだ手帳を見せただけである。

ここで彼が言うべき台詞としては「どうかしましたか」とか「何か事件ですか」ぐらいが自然であろう。「自分が事件に関与しているからことさらに関係を否定しようとして不適切な返答をしてしまった軽率な犯人」を描こうとしたのなら話は別だが。キャラ萌えにするために、執事やお嬢様の口調をいじるのは構わない。その代わり、他の一般人の口調はお嬢様や執事とのコントラストを強調するためにも、「普通」にした方が効果的だと思うのだが、いかがなものか。

 

 

とまぁ、のっけから拒絶反応が出てしまったため、なかなか読み進めることができなかったのだが、第1話を読み終えたころにはこの作品の魅力も良くわかってきた。本作品はお嬢様と執事という特殊なキャラクタ設定を生かした、パズラー向け揺り椅子探偵型ミステリである。キャラ描写はアバウトで、いまひとつ実在感が無いものの、そもそもいわゆる「本格ミステリ」は、恋愛などミステリに関係の無い要素を過剰に含めてはいけないと言うルールがあるため、実は致命的欠陥とはなっていない。記号化されたキャラクタにより、冗長な部分がないという点だけ捉えれば、「本格らしい」ともいえる。

つまり、本作品はキャラ萌えのせいでわかりにくいが、実はシャーロックホームズなどの古典的本格ミステリに非常に似ているのだ。そして、「キャラ萌えのせいで」と書いたが、よくよく考えるとホームズなんてキャラ萌え以外の何物でもないのである。そう考えるとお嬢様は完全なワトソン役で、「読者より少し頭が悪い程度」という役を見事に演じているといえよう。

 

ただ、それでもやっぱり日本語表現に納得のいかない点や設定に無理のある点が多々。

前者はたとえば地の文の表現など。お嬢様視点と神の視点の地の文が同じ口調なのが気にかかる。どうみてもお嬢様の感想にしか聞こえない地の文に引き続き、お嬢様には知りえない事実が説明されたりするので、困惑させられてしまうのだ。

後者については以下。

 

とまぁ、文句は多々あれど、面白くないかといえば面白い部分も多々と言う微妙な作品。ただ、個人的には満点は上げられません。地の文の問題とかは編集者がちゃんと指摘してあげるべきだったんじゃないかなぁ。と思ったので、冒頭に「失礼ながら、編集者の目は...」と書かせていただいた次第。惜しい。