攻殻機動隊 S.A.C. episode 8 恵まれし者たち MISSING HEARTS
監督:神山健治/ 原作:士郎正宗/ 82点
攻殻機動隊 Stand Alone Complex episode 8
- stand alone eposiode:恵まれし者たち MISSING HEARTS
■義体の価値と生身の価値
素子はガールフレンドから不思議な話を聞いた。心臓移植手術の成功に喜んだ患者家族が、臓器提供者に連絡を取った所、持ち主は確かに心臓を人工臓器に代えたものの、臓器提供をした記憶がないと言うのだ。一見大した事件ではないようだが、近年マフィアが、臓器密輸がらみで集団拉致事件を起こしているという情報もあり、9課メンバは犯人探しをすることとなる。
今回の話自体は非常にシンプルである。人工臓器との入れ替えを行った患者の臓器を、金銭目的で勝手に転売した、ある犯人を確保する、ただそれだけの物語である。今回のエピソードは、ストーリーには大した価値はない。どちらかと言うと義体化に対するおのおのの価値観や、素子、バトーが今あの姿であることの理由について、視聴者に考えてもらうための話であると言えよう。
以下、ネタバレ等を含む解説。
ネタバレ1
素子とトグサは問題の臓器のコーディネートを行なった、メディック社に調査に向かう。そこに待っていたのは、ジェイムスン型という、40センチ四方程度の箱に棒状の手足が生えただけと言う、おおよそ生き物とは思えないような義体を利用する、イワサキ社長である(ジェイムスン社長の本名がイワサキだと覚えている人がどれだけいるだろうか!)。彼は二人に会うや否や、臓器のスペアを培養しないかと営業トークを始め、既に生身でない少佐には、培養して売るための投資をやらないかともちかける。
ここで登場したジェイムスン社長は、肉体に心情的価値を感じないタイプの典型としての役割を持っている。彼にとって、内臓と言うのは培養したり、右から左へ転売することで、現金を生むための、単なる商品に過ぎないのだ。トグサの想像が正しければ、自分の内臓すら、商品として売りさばいた可能性がある。
一方、それとは間逆の、実は義体になりたくなど無かった典型といえる人物は....素子当人である。彼女が自分でそれを語るようなシーンは最後までない。しかし、それが行動でわかるような設定となっているのだ。
実は臓器転売を行っていたのは、医学生達だった。ここで医学生という立場を利用したのにも理由がある。医者という職業は、人の命を救うという、人道的職業であると同時に、人の体をあえて非人道的に「物」扱いしないとやっていけない部分をもつ職業だからである。そういう職業についていれば、うっかりすると非人道的な考えが当たり前になってしまうこともあり、実際彼らは逃走中に、「一般市民に激安で臓器を提供していただけ」という表現を使用している。
そういった、生身の肉体を「物」扱いしている連中に対し、「いつもと様子が少し違った」怒りの表情を見せていることで、「少佐はなりたくて今の全身義体になったわけではない」という事がわかる。バトーは事実を知っており、ピンときていないような事を言っているが、敏感なトグサはすぐに気づいたようだ。また、バトーも素子の気持ちを理解していなかっわけではない。その事は、終盤の第25話「硝煙弾雨」にて明らかにされる。
ちなみに、少佐にバトーが投げ飛ばされるシーンも単なるギャグではない。バトーが指摘するとおり、職業柄、あんな線の細い女性型義体である事のメリットは少ない。じゃあなんで?という疑問を視聴者に変わって投げかけているのだ。あのシーンの少佐は話をそらしてごまかしていたのだ。その理由はある程度25話でわかるようになるが、その詳細や真の意味での理解のためには、次のシリーズ、2nd GIGSを待たねばならない。
付記1:わざわざ書くほどの事ではないが、サブタイトルのMissing Heartsは、「無くなった心臓」と「心無い者達」というダブルミーニングである。
付記2:冒頭に「臓器密売のための集団拉致事件」の話が出てくるが、この事件は後に第19話「偽装網に抱かれて」で再登場する。
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