攻殻機動隊 S.A.C. episode 6 模倣者は踊る MEME
監督:神山健治/ 原作:士郎正宗/ 98点
攻殻機動隊 Stand Alone Complex episode 6
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■始まりの終わり
最初に言っておくが、「終わりの始まり」の誤用ではない。エピソード6「模倣者は踊る」は笑い男シリーズの序章の締めに当たる話である。これまでの2話でばら撒かれた布石が回収され、今回の事件の犯人像が明らかになるとともに、「笑い男事件」という壮大なる謎が、視聴者に突きつけられる。ちゃんと話についていければ、だが。少なくとも自分は無理だった。皆さんも「繰り返し見られる作品」として楽しんでいただければと思う。
上記の通り、本編は2つの楽しみ方をする事になる。それらについて語るためには、どうしたってネタバレが発生するため、思い切って全部ネタバレ内で説明する。始まって早々で恐縮だが、ご容赦いただきたい。
この物語の1つ目の楽しみと言えば、当然ナナオによる大堂暗殺事件である。
ネタバレ1
冒頭の「俺ははじめからそっちにはいねぇんだよ」という発言でわかるとおり、9課のメンバはまんまとナナオに騙される。
彼の犯行はメールに断片を添付することで少しずつ送り込んだ、遅効性ウィルスによる、SP達の電脳ハックによるものだった。SP達は情報セキュリティ上暗号通信を行っていたため、SPにのみ複合化可能な形式で暗号化したデータを送り込むことにより、SPにだけ発症し、SP以外は何のデータかわからないウィルスを実現したわけだ。
また、そのデータも何らかのプロクシサーバを経由して送信していたようである。そのおかげで、張り込みも突入も空振りとなってしまっている。プロクシというのは、まぁ、中継器をはさむことで、電話が中継器からかかってきたように見せるサーバのようなものだと思っていただければよい。詳しくはproxy serverで検索をどうぞ。
このように、前の2話を深く考えずに見ると、「ナナオ=凄いハッカー=やっぱり笑い男?」のように思ってしまう仕組みとなっている。その上で直後に、「おい、冗談だろ。俺を殺しちまったら一体誰を笑い男として逮捕するんだよ」という台詞によって、ナナオは笑い男ではない事実がわかる。また同時に「彼が独自に笑い男を演じていた」のではなく、「笑い男のフリをするよう、手引きしていた人間がいた」事もはっきりわかるようになっている。
とまぁ、ネタバレ内に書いたように、ナナオの正体については前2話が理解できなくても、大体理解できるような親切設計だったりするのだ。このあたりの脚本は良くできている。
もう1つの楽しみ、笑い男事件についての進展がまた面白い。
ネタバレ2
ナナオによるウィルス騒ぎは、素子によるSP達の拘束により、一旦収束する。解析の結果それは素子の予想通り、SPの暗号機能を利用したものであり、それ以上の伝播の危険性はないと思われた。しかし、事件は思いも寄らない方向に動き出す。
多数の一般人と思しきものたちが、大堂の命を狙い始め、警官の一名は発砲するにいたる。その後もなだれ込んでくる、「模倣者」たち。実は彼らはナナオのウィルスには感染しておらず、それらは自発的な行動とみられた。なんら個人的接点が無いにもかかわらず、自然発生的にほぼ同時に模倣者となってしまったのだ。この「模倣者」が自然発生的に登場したことこそ、本作品のcomplex episodesの基幹となる現象である。これを覚えておかないと、最終話の素子の会話が全く理解できないので、しっかり覚えておいてほしい。
なお、ここで素子は「茶番の域を超えてるわ」と発言している。これは警察が何らかの隠蔽工作の為に「ウィルスによる大堂暗殺未遂事件」という自作自演の茶番を演じていると思っていた素子が、自作自演で銃まで撃つのはおかしい、と気づいたゆえの台詞である。「何か違うリアルが始まって」いたのだ。
今回の事件をみて、荒巻は「元々笑い男事件には実体のある犯人は存在しないのではないか」と語っている。「模倣者達も、この現象が引き寄せたstand aloneの複合体(complex)であり、所詮はオリジナルのないコピー」なのではないかと。実はこの意見は当たらずとも遠からずなのだが、それだけでは解決しない。「私達を見ていた存在は何?」こそがその布石となっている。
ネタバレに書いたように、派手な3話の締めであると同時に、笑い男に関する一連の事件の始まりでもある本エピソード、非常に重要なので何度も復習をしておこう。
ちなみに、本作の副題"MEME"とは、遺伝子によらず、模倣によって人から人へ伝えられる情報の単位の事をさす。これは元々動物行動学者であるリチャード・ドーキンスによって、遺伝子を意味するgeneとギリシャ語の模倣するを意味するmimemeから作られた造語である(原典は「利己的な遺伝子」The sefish gene, 1976)。
例えば、我々人間は動物としての本能だけではなく、両親の行動を模倣することで言葉を覚え、道具を使う。学校で教師の教える内容や、教科書や本から様々な知識を模倣し、そこから新しい思想などを産み出す。これらは全てgeneではなくmemeの産物なのである。
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