レタス・フライ Lettuce Fry作者:森 博嗣/ 原作:/ 91点
■より多彩となった短編集
レタス・フライは森博詞による短編集の1つ。森博詞=ミステリ作家という一般読者には意外かもしれないが、この人はミステリ外の文学的な作品が抜群にうまい。押し付けがましくないし、切り口が新しくて毎回驚かされる。そんな短編が8本も収録された本作は、森ファンにもそうでない方にもぜひ一度読んでいただきたい。 ちなみにレタス・フライは、スカイ・クロラ的な発想でいくと、Let us fly.と表記することも可能なので、それを意識してのタイトルだと思われる。
【ラジオに似合う夜 A radiogenic night】 ある刑事のとある国での体験談。主人公が刑事であることから想像がつくように、作品はミステリの形を成している。ミステリの謎と言えば、どうやって盗んだか、誰が殺したか等がメジャであるが、本作の場合、「犯人は一体何が目的だったのか」という謎が採用されている。トリッキーなパズラー作品には動機に不自然さがつきまといがちであるが、本作の場合は、舞台設定の妙でなるほど、と思わされた。 主となる事件以外に、登場人物が語る過去の事件も会話の中で解決される。この短い短編の中で、何個も謎が楽しめるのだから、お買い得な気分である。また、ファンが読むと気になる点がいっぱいで、別の意味での魅力も凄い。
【檻とプリズム A prism in the cage】 ルー・ガルーを髣髴とさせる、不思議な空気をもつ少年達のミステリ。異質な思想の気持ち悪さを感じる。
【証明可能な煙突掃除人 Provable chimney sweeper】 ある煙突掃除人が経験した不思議な体験。こういう作風は好き。
【皇帝の夢 The imperial dream】 不思議な夢の話。わが子も今こんな夢を見ているのだろうか。
【私を失望させて Drive me to despair】 星新一張りのショートショート。オイオイと突っ込みを入れる自分の脳もたまに似たことをやっている気がする。
【麗しき黒髪に種を Seeds for her lovely tresses】 これも数ページだけのショートショート。心の中のちょっとした後悔などの思いは、何か別の思いと不思議なリンクをして心の中に蓄えれれていく物なのかも。
【コシジ君の事 My most unforgettable figure】 ちょっと能力の劣った、少年時代の同級生、コシジ君の話。人の記憶と言うのは不思議なものである。
【砂の街 The sandy town】 なぜか砂だらけになった世界を舞台にした不思議な話。いろんな解釈の仕方があるけれど、とにかく物悲しくて素敵な話。
【刀之津診療所の怪 Mysteries of Katananotsu clinic】 Gシリーズの面々が、白刃島へ旅行に行く話。ラジオ〜と同様、小さな謎解きが沢山楽しめる構造。このごろの「解決編をあっさり」が徹底されると、こういうスタイルに近づくのかも。
Copyright barista 2010 - All rights reserved. |