攻殻機動隊 S.A.C. episode 5 マネキドリは謡う DECOY
監督:神山健治/ 原作:士郎正宗/ 90点
攻殻機動隊 Stand Alone Complex episode 5
- complex episodes:マネキドリは謡う DECOY
■ここ、テストに出るから覚えておいて!
complex epsodes3連作の2作目である本エピソードは、大きく2つの役割を持つ。1つは前エピソードから引き継いだ、笑い男と推されるナナオ・Aについての9課メンバによる調査報告。もう1つは6年前に起こった笑い男事件についての説明である。
物語としては大きな展開があるわけではなく、映像的な見せ場などは少なめ。しかし、笑い男事件とは何だったのかを掴む上で、重要な情報源となる1話である。
以下、本エピソードに関するネタバレ。
ネタバレ1
本エピソードで既に9課メンバは前エピソードでの汚名を払拭しつつある。セラノの元社員でありながら、利潤から漏れたため恨みを持つという、あまりにも犯人らしすぎる容疑者像など誰も信用していない。寧ろ、警察の自作自演による、何らかの隠蔽行為なのではないかと推察するにいたっている。ただし、この時点での「警察の陰謀」についてはトグサですら「インターセプター不正疑惑を隠すために、笑い男を演じた」程度の想像しか出来ておらず、全体を把握するにはいたっていない。
しかし、少なくともナナオ・Aが作られた犯人であるということは、その後の調査で徐々に可能性を増し、9課メンバの面目は保たれることになる。このあたりの、スピード感は非常に大切であり、本シリーズはこのペースを終盤までちゃんとキープする。
多重に謎を仕込んだ脚本を作る際、探偵役が妙に無能なことがある。謎を難しい物に見せ、尺を稼ぐための工夫なのだろうが、探偵役が視聴者より無能な作品ほどだるい物はない。ミステリの十戒などを読むと、「ワトソン役は読者より少し馬鹿なぐらいが良い」らしい。シンジ君のわかんないよと同様、視聴者の代弁者なわけだが、作品を小さくする傾向にある。
攻殻の場合はワトソン不在の全員ホームズ状態なため、映画的なダイナミックさが演出できている。その反面、多くの視聴者を置いてきぼりにして、「わかんないから見ない」と思わせる危険性もあるのだが。
ネタバレ2
6年前の事件については、素子がガールフレンド達の部屋に向かい、過去のニュース映像を見るという形で視聴者に示される。この映像はこの後も様々な編集、様々な視点で流れることとなるが、勘の良い人間なら、映像を見るだけで1点、「違和感」を感じるよう作ってある。右下の天気予報のマークがそうなのだが、詳細は数話先になる。
「笑い男」が姿を見せるのは最初の誘拐事件の際のみである。数日前に誘拐を行った「笑い男」は、カメラの前で真実を語れと、セラノゲノミクスの代表である瀬良野に銃を突きつけ、テレビカメラの前に登場したのだった。特A級のハッカーでありながら、「物理的誘拐による、テレビカメラ前での説明要求」などというあまりに泥臭い、いや青臭い行為が逆に人気を呼び、彼が目隠しに利用したアイコンがポップであったこともあり、笑い男事件は社会現象となる。
しかし、彼のカメラの前での行動と、その前後の身代金要求や企業テロは同一の人間の行動としてはやや不自然さがあり、単独犯とは思いがたい、という当時の番組の見解が流れる。これが、ナナオ・Aに関する供述についての「語られるナナオの人物像が微妙ではあるが一人称を成しておらず、何人かの人格を合成して作ったものである。なのに証言内容自体は一人称文体を成し」という分析と並び、「犯人と目される人物」に関する情報をどう捕らえるか、という情報の取り扱いの難しさが、ここでわかりやすく提示されているといえよう。いや、あんまりわかりやすくないぞとか言わない。
以下、シリーズ全体に関するネタバレ。
ネタバレ3
さて、今回の「茶番劇」において笑い男役を担ったナナオ・Aだが、依頼者と思しき人間、おそらく深見と思われる人間と電話で会話した後、このようにつぶやいている。「あの犯行予告、俺がやったんじゃないんだけどな。ま、あと少しで終わるんだし」つまり、今回の「茶番劇」の首謀者や実行犯である、深見、ナナオにとって不測の事態が発生していたことがわかる。しかし、ナナオの「まぁ、いいか」という思いにより、そのことは深見には伝わっていない。
そしてこの時点で、前のエピソードで登場した「笑い男」が、ナナオが演じていたわけではなく本物であった事が視聴者にわかる。笑い男登場?→ナナオと警察の自作自演?→やっぱり本物という構造になっているのだ。残念ながら自分は、相当何度も見返すまで、この見事な構造が把握できなかった。
さて、ここでもう一つ重要なキーワードは、上記の直前のナナオの台詞である。電話での説明において、「以前から用意させて戴いていた、プランの一つですから」と発言している。これは明らかに首謀者に対して言い訳している台詞である。逆に言えば、「3日後の会見中に事件を起こすという予告を行い、次のエピソードのような形で実現する、というプラン」は実際には存在しなかったということになる(この話は第9話のルースの説明にて証明されることとなるので、詳細はそちらで)。
つまり、ナナオは「本物の笑い男による予告」によって、本物の計画した事件を、笑い男を模して演じさせられたことになる。本人の意思だと思ったままで。初めて見た時には、どこが本物の行動で、どこがナナオの計画通りだったのか、明確に理解できていなかった。
ナナオが遅効性ウィルスによる攻撃に出る所までで、本エピソードは終わりだが、これは次のエピソードで語られるため、ここでは割愛する。
とまぁ、ネタバレなしには語れない複雑な内容にて、あっさりしたエピソードの割には内容はギッシリ。しかし、今回こうやって真面目に分析してまとめてみると、相当繰り返してみないと全く理解できない作品だと思う。いや、自分に記憶力か理解力が足りないのかもしれないが。
ってなわけで、冒頭に書いたとおり、先のエピソードの理解のために、ここで出てきた情報をしっかりと抑えておく必要があるのだ。出るよ〜。
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