攻殻機動隊 S.A.C. episode 4 視覚素子は笑う INTERCEPTER
監督:神山健治/ 原作:士郎正宗/ 100点
攻殻機動隊 Stand Alone Complex episode 4
- complex episodes:視覚素子は笑う INTERCEPTER
■最終話にたどり着いてから、その凄さの理解ができる脚本
トグサの元に刑事時代の同僚である山口から、久しぶりの連絡が入った。山口は6年前に発生した「笑い男事件」と呼ばれるテロ事件の特捜部に所属していたのだが、どうも部内に不穏な動きがあるというのだ。電話では話せないから、直接会いたいという山口。しかし彼は「俺の目にもインターセプターが!」と叫びながら、高速道路で自損事故を起こし、死んでしまった。一晩中彼を待っていたトグサは、テレビのニュース番組で彼の訃報を知る事になる。
山口の葬儀に出たトグサは、彼の妻より山口から託されたという封筒を渡される。しかし、中に入っていたのはなんでもない日常を撮影した、スナップ写真にしか見えなかった。
特捜部で起こった不穏な動きとはなにか。山口の口走ったインターセプターとは何か。山口はあの写真を何のためにトグサに渡そうとしたのか。そのあたりが視聴者の、興味の対象となる。
「視覚素子は笑う」以降、「マネキドリは謡う」「模倣者は踊る」と3話連続でcomplex epsodesが続く。3話完結の物語となっており、本エピソードはその導入部に当たる。
complex episodesは一連の「笑い男事件」を取り扱ったものであり、第4話はそのcomplex epsodes全体の導入部でもある。「笑い男がまた事件を起こした!」という物語にしてしまうのが普通だと思うが、そこを一見何の関係も無い「インターセプター不正使用事件」として始め、その事件現場を「笑い男事件特捜部」とする、というこのさりげなさが実に素晴らしい。
また、ちょっぴり笑い男事件に触れる程度では終わらせないのが、本作の凄いところ。インターセプター事件自体がしっかり構成されているため、視聴者は最後の数分までこの話を、できの良い刑事ドラマとして楽しむ事となる。
ネタバレ1
しかし、最後の数分、突然の笑い男の乱入に頭が大混乱したままで視聴を終える羽目になってしまうのだ。まとめてレンタルしてくると、この話以降、見るのを止められなくなってしまう。最後の台詞の後の特徴的なベース・サウンドもまた素晴らしい。何度見てもゾクリとして鳥肌が立つ。
上記は初めて見た人が感じるであろう感想についてのまとめである。しかし、全編を通してみるともっと複雑な物語の構成に驚くことになる。以下、1エピソードとしての読み解き方と、笑い男事件全体としての読み解き方についてまとめます。作品全体にわたるネタバレとなりますので、最終話まで見終わっていない人は絶対に読まないように注意。
ネタバレ2
エピソードとしての面白みは前述の通り、「インターセプター」事件を取り扱ったものである。冒頭で山口が「俺の目にも」と発言している時点で、インターセプターが目に仕込む何かあることは明言される。しかし、山口の妻に手渡された写真を見ても、視聴者はなかなか答えと結びつけて考えることが出来ない。
ところが、劇中のトグサはインターセプターの存在が頭にない状態で、写真に「カメラがない」事に気づいてしまう。台詞の意味がわからなかった人もいるようなので解説しておくと、被写体の目や鏡などに撮影者の姿が映っていないことが不自然だ、と気づいたのである。
しかしこの時点でのトグサはまだインターセプターとの関連には気づいていない。元同僚であり、山口と同様、笑い男事件特捜部に所属する、深見との会話でそれに気づくことになる。深見からの情報は大きく分けて二つ。最近、1人の重要参考人が新たに浮かび上がっていること。そして、その参考人から証拠を得るために、インターセプターを利用するかもしれないという情報だ。
トグサはこの会話から「インターセプターの不正利用」が、山口の伝えようとしていた「特捜部の不穏な動き」の正体だと気づくわけだ。ってか山口、写真と一緒に「インターセプターで撮影したもの」とかメモ入れとけよ。
さらに情報は深くなる。課長や少佐との会話で、インターセプターがセラノゲノミクス社の製品であることが明らかにされる。同社は、笑い男事件の第一被害者となった会社である。そこの製品を警察が利用しているということから9課のメンバは、迷宮入りしている笑い男事件の陰には、セラノゲノミクスと警察の癒着があったのではないか、と想像するにいたることとなるのである。
で、揺さぶりをかけるために少佐がベロニモのところに依頼に行ったのは、「警察内部でのインターセプター不正利用」と「セラノと警察の癒着疑惑」をメディアにリークするためである。重要なのは後者である。実際これは効果的に働き、丹生の元に記者があつまり、責任者である大堂が会見を開くことになる。
これにて、インターセプター事件は解決....というのが一番浅い部分でのお話。
以下は、全編を通じた仕組みについて述べる。
ネタバレ3
ここで注目しておきたいのは、大堂らの身を引くための準備が万端なことである。インターセプター不正利用などの発覚は、一部上層部には計算済みのことだったのだ。警察のもくろみは、笑い男事件が一部の警察関係者とセラノ関係者の癒着によるものだったのではないかとあえて疑わせ、笑い男事件を再びニューズメディアにのせることにあったのである。
ネタバレ4
それはインターセプターの情報を漏らしたのが、他ならぬ深見であることからもわかる。彼はわざとトグサに情報を漏らしたのだ。深見は存在感のない人物だが、最も重要な所で登場する、いわば黒幕のような人物である。
したがって、この時点での9課は完全に踊らされた状態にある。逆に、「笑い男」らしき存在が登場し、「でもね、今日のは酷いよ、酷過ぎる。こんな茶番なのに、ちっとも笑えませんよ」と言っているのは、彼が今回の「インターセプター不正使用疑惑」からの「癒着疑惑」までもが、単なる茶番であることを知っていたからに他ならない。
とまぁ、ネタバレ内に書いたとおり、非常に深いお話となっている。というか多分、最終話まで見ていない人には今回のネタバレ解説を見ても意味がわからないだろうし、1スルー見たぐらいのライトなファンにも上記の真意は通じない可能性が高い。エヴァの難しさが「どう理解するか」というアーティスティックな解釈の難しさなのに対し、Stand Alone Complexの難しさは、ヒントが出揃った上での「何が答えか」という理屈の難しさであり、全く別種のものである。
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