攻殻機動隊 S.A.C. episode 3 ささやかな反乱 ANDROID AND I
監督:神山健治/ 原作:士郎正宗/ 87点
攻殻機動隊 Stand Alone Complex episode 3
- a stand alone episode:ささやかな反乱 ANDROID AND I
■映画マニアによる映画マニアの為のエピソード
アンドロイドの集団自殺事件が発生した。本来ロボット三原則同様、自己防衛ロジックが働くべきアンドロイドの自殺は、考えにくい事象であった。調べてみると、それらはやや型遅れのGA07-JLK、通称「ジェリ」と呼ばれるモデルばかりである事が分かった。
女性型アンドロイドはその製品の性質上、違法改造を受け、性の慰みものとなりがちで在ったことから、オカルト的風聞も流れつつある状況であったが、果たしてアンドロイドたちの自殺の原因は?というのが本エピソードの主な流れである。
物語全体はちょっとしたミステリ仕立てで、初めて見る際にはクライムノベル的に楽しむ事ができる。一方で映像的見せ場があるわけではないので、繰り返して見るには不向き。脚本的には感動的なラストが設けられているのに、個人的に「彼」のキャラクタが好きになれなかったせいで、いまひとつ感情移入できなかったのが惜しい。
以下、ネタバレを含む、「彼」についての解説。
ネタバレ1
この事件の犯人は、「マクラクラン」という富野由悠季アニメに登場しそうな名前の、カナダ大使の息子である。こいつがまぁ、ウジウジした甘ったれボウヤで、未来の2次元ラブ青年の典型って感じで非常にいけ好かない。そのせいで、上記のような感想になったのだが、もうちょっと機械への愛を美しく見せるようなキャラにできなかったものか。って、バトーとキャラが被るから無理なのか?
機械への愛と書いたとおり、このマクラクランは自分のジェリが大好きで、完全に恋人として扱っている。恋人である以上は「世界に一つだけの花」であってほしいわけで、その思いが暴走し、彼のジェリ以外の全てのジェリを自殺させるべく、ウィルスをばら撒いたのだ。うーん、マッチョ。
ちなみに、機械を自分好みの彼女に仕立て上げて...って行為を大佐はマッチョと形容するのだが、その意味は分かっただろうか?言葉としてはよく耳にする「マッチョ」だが、実はこれ、machoというスペイン語だったりする。意味は「やや誇張された男らしさ」とか「精力的な」とか言う意味である。そのあたりから想像するに、大佐は、「それはそれは男らしい事で」っていう、高校生男子にありがちな「男っぽさ」を馬鹿にしている、ってのが多分普通の解釈だろう。
もう一つ考えうるのはマッチョ=自慰的ってところではないだろうか。多くの筋肉自慢たちは、自分で鍛えて自分でその肉体美に酔いしれている。結局対象が自分に向かっている点は、自慰的であると評されても仕方が無いだろう。そちらの意味に捉えると「だから少佐が言うなって」の台詞も、単に「メスゴリラ」という少佐のあだ名をあげつらっただけではない意味を持つように思う。
とまぁ、上記ネタバレ内に書いたように、「彼」に感情移入できないのは仕方が無いと思う。しかし、脚本としての感動の演出手法は見事で、むしろそちらの方にゾクリとした。
以下、トグサ視点でその演出方法を解説。当然ガッツリネタバレです。
ネタバレ2
まず、物語冒頭、ジェリは会話能力も料理等の機能もパッとしない、旧型の機械であるという説明がなされる。違法改造の話が登場するなど、この時点でのジェリの扱いは完全な「機械」である。マクラクランにとってのみ彼女は人間と同等に扱われる。
ところが、9課メンバに追い詰められた際、彼女はマクラクランを裏切り、彼を9課メンバに差し出す。
「ジェリ、何をする!気でも狂ったのか?」
「いいえ、正気よ...いや、そう狂ったの。一緒に行きたくないの。もう貴方を愛したくない」
この台詞を聞いて、バトーは驚く。「何処がポンコツなんだよ。9課のより、よく喋るじゃん」という旧型A.I.とは思えない、スムースな会話についての驚きだ。しかし次のジェリの台詞を聞いてバトー、トグサの二人ともがもっと驚く事になる。
「ご免なさい、本当に愛してた」
アンドロイドが持ち主の命令にはむかうなどという事は、本来考えられない事である。しかし上記のシーンをみると、あたかもアンドロイドであるジェリが感情をもち、彼に歯向かったかのようであったため、2人は驚いたのだ。しかし、彼らはオカルトを信じるようなキャラクタではない。後に「自分のジェリには保護コードをかけてた」とウィルスの可能性を検討しているぐらいだ。しかし、ここで少佐だけが、ジェリにゴーストが存在したと想像しているかのような反応を見せる。
そして、トグサが自宅に帰った後にその謎は解ける。なんと、「いいえ、正気よ...」という会話は映画の台詞そのままだったのだ。マクラクランが映画マニアだったという物語冒頭の設定がここで効いてくる。逃走中のマクラクランの台詞「糞!工事か...同じ結末なんかにしない!」の意味もここで分かる。二人は半ば映画のあらすじをたどった逃走劇を繰り広げていたのだろう。
なんだ、映画を真似ていたから、スムースに会話していたのか。結局は機械の何らかの暴走だったのか、と納得し、「ジェリ=ただの機械」である事を確認し、納得したトグサ。
しかし、トグサは違和感を感じる。最後の「ご免なさい、本当に愛してた」という台詞が映画には無かったのだ。トグサはぞっとする、本当にジェリはただの機械だったのか。ゴーストが自然発生していたのではないのかと。初めてみた時には、自分も一緒に鳥肌が立った。実に見事な構成だ。
つまり、タイトルの「ささやかな反乱」は、マクラクランが世間に反乱を起こした、という意味でないのだ。マクラクランのレールに乗った、映画の女優通りの会話に反した台詞を口にした、これこそがジェリにとっての「ささやかな反乱」だったのである。その事に最近気づかされて、改めてぞっとした。
とまぁ、こんな具合。本当に素晴らしい。マクラクランがもっといい男だったら、もっといい点数をつけたのだが...。
また、上記ネタバレのような構成により、シリーズ全体としてみた時に、「当初のタチコマ=単なる機械」→「HAW0206=ハードが機械でもゴーストを持った人間の意識と結合して半ば生命体となった」→「ジェリ=ハードもソフトも機械なのに、生命体に近づいていた?」という、大きな流れが見えるようになっている。stand alone epsodeだからといって、シリーズ全体には関係が無いのかというと、そうではないのだ。
ところで、本作品はどうも実在の映画をモチーフにしている様子。ゴダールの「勝手にしやがれ」と「アルファビル」がそうだ。実はマクラクランの部屋に踏み込んだ際、手に取った2本が両作品だったりする。自分は古典に弱いので、今度機会があったら見てみようと思う。その場合、ここに記事を追記するかも。
ちなみに、サブタイトルのANDROID AND Iは、「アンドロイドと僕」であると同時に「アンドロイドと愛」なんだろうな、多分。
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