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攻殻機動隊 S.A.C. episode 2 暴走の証明 TESTATION

監督:神山健治/ 原作:士郎正宗/ 100点

攻殻機動隊 Stand Alone Complex episode 2

- a stand alone episode:暴走の証明 TESTATION

 

■何度見ても涙の出る名作

 

剣菱重工で開発中だった新型の多脚戦車が、市街地に向かって暴走を開始した。9課のメンバーは思考戦車タチコマと共に暴走を食い止めるべく、多脚戦車の追跡を開始する。果たして犯人は誰なのか。暴走事件の意図はなんなのか。そして9課メンバは、人的被害を未然に食い止める事ができるのか。物語の骨子はこのようなものである。

荒筋だけなぞると、分かりやすいクライムノベルであり、暴走した戦車を一般的なものに変えるだけで、「踊る大捜査線」の1エピソードとして採用できそうな、SFアニメ作品としてはいささか地味な話ではあるが、非常に丁寧に作られており、攻殻機動隊のstand alone epsode中、屈指の名作となっている。個人的に大好きなエピソードの一つであり、既に10回以上見たが、ラストシーンではどうしても涙ぐんでしまう。内容について奥様に解説したりしていると、喋っているだけで涙がでそうになるぐらいだ。

...と思ったら、Wikipediaによると、この第2話「暴走の証明 TESTATION」は「平成14年度文化庁メディア芸術祭 アニメーション部門優秀賞」という賞を取っているのだとか。自分の評価眼は間違っていなかったのだと嬉しい様な、大して目新しい着眼点ではなかったのかと哀しいような(笑)。

 

本エピソードのシリーズ中での役割はなんと言っても、タチコマという存在の紹介であろう。本シリーズに登場するタチコマは思考戦車と呼ばれる。機械としてのジャンルとしては、本エピソード中の追われる側の存在であるHAW-206と同じ、多脚戦車に属するのだが、HAW-206があくまで操作される機械であるのに対し、タチコマはA.I.を保有し、自立稼動する点が大きく異なる。

攻殻機動隊の各シリーズでは「生命の定義」が俎上に上がる事が多いが、本シリーズStand Alone Complex中では、タチコマたちの自我が作品のメインテーマの一つとなっている。本エピソード中ではタチコマの素の状態、設計上の仕様や動作が描かれる。物語冒頭の、鑑識:「今の所、各機体毎の個体差は認められんな」バトー:「つまりお前には個性がねえって事だよ」タチコマ:「個性?」というやり取りを描く事で、現時点でのタチコマが単なる機械に過ぎず、個性もゴーストも持たない、非生命体である事を明示しているのだ。同時にバトーが「これは機械への愛なの」といいながら、天然オイルを与えるシーンが、後々のエピソードへの重大な前フリとなっている。

物語中盤、タチコマの一台が多脚戦車に蜂の巣にされ、「ダイジョーブデース」などと会話するシーンがある。このシーンの撃たれたタチコマは、自らの破損に何の感慨も持っていない。周囲のタチコマも「いいないいな、壊れたよ」「構造解析されるかも」と、他の機体の破損に感傷的なものは抱いていない。A.I.があって、自立的に考える事ができ、人間のように話す事ができても、それだけでは生命体とは呼べないのだ。

一方で、A.I.に自立的に知識を集めさせる為に「好奇心」と呼べるような、情報収集傾向が設定されている事も明示している。既にこの時点でタチコマたちは、機体の破壊≒タチコマの死について若干の興味を持っている点も興味深い。

 

一方のHAW-206はタチコマ達と反対側の存在として描かれている。ちょっと長くなるしネタバレになるが細かい説明をしておこう。以下、ネタバレ有り。

とまぁ、ネタバレ内のような描写により、現時点のタチコマとHAWの明確な対比がなされるわけだ。本エピソードは1つの作品としても非常に美しく哀しい、素晴らしい作品だが、シリーズ全体の中で考えても、テーマを明確にする為に大きな役割を担っているといえよう。

 

その後の、事件の解決へのシークエンスも素晴らしい。戦術的な攻略と、剣菱への説得を含む戦略的な攻略。そして最後には素子の力技と、見せるべき映像を的確に見せてくれる。

シリーズ全体への寄与を抜きにしても、上記のネタバレ内の扱いだけで本エピソードはもう、100点である。これより泣けるアニメを見た事がない。

 

 


■余談

ちなみに本作品で剣菱というメーカが出てくるが、これは明らかに三菱のモジリ。現実の日本で兵器メーカーといえば三菱である。車が売れて無くても三菱自動車がつぶれないのはそういうわけである。途中登場する、「ジガバチ」という名の対戦車ヘリの命名も実に巧妙。ジガバチとは幼虫に卵を産み付けて殺す、芋虫の天敵のような蜂である。そして、芋虫といえば英語でキャタピラー。つまり、戦車の事だからだ。

 

本エピソードを見ると、名作「老人Z」を思い出す。本エピソードが気に入った方は、是非そちらも見ていただきたいと思う。

 

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