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天空の蜂

作者:東野圭吾/ 原作:/ 98点
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■社会派の傑作

 

天空の蜂は巨大な軍用ヘリ、通称ビッグBの乗っ取り事件を扱った小説である。宮崎アニメとは関係が無い(あたりまえ)。ビッグBはフライ・バイ・ワイヤ(要は電子制御)で動作するヘリであり、乗っ取りは無人のまま遠隔操作によって行われた。時を同じくして犯人からは犯行声明が届き、そこには「日本中の原子炉を停止しないと、高速増殖炉(要は最新の原発)にヘリを落下させる」と書かれていた。しかもそこには開発者の1人の子供が、たまたま閉じ込められてしまい...と、東野圭吾作品にしては珍しく、一気に物語のテンションが上がる作品である。

で、そこから難解なトリックを技巧的解決策にて暴き出し...とはならない。本作品は社会派の色が強いクライムノベルで、物語は警察による地道な調査によって解決される。また、主犯格が誰であるかも比較的早期から明らかにされる為、読者は「どうやって事件を実現したか」というHowではなく、「何故犯人はこの犯行に及んだのか」というWhyを探る事になる。

 

本作品の主題はもちろん、「日本における原子力発電所をどう捕らえるか」なんだけど、大矢博子さんによる超有名書評サイト なまもの!の中の天空の蜂の書評によると、なんと「もんじゅ」の例の事件よりも前に発表された作品なのだ。優れた小説家の世間を見る目は最先端の科学者のそれと同じぐらいに敏感という事だろう。

実は読後に大矢さんの書評を読んでみて驚いた点はもう一つある。読みながら「ホワイトアウトみたいだなぁ」と思っていたのだが、なまもの書評中に「真保裕一のようだ」という旨の文があって、ググってみたら、まさにホワイトアウトの作者だった。つまりミステリ作家として人気であると同時に、クライムノベルの専門家と同じ力量も持ち合わせている、って事だろう。

 

作中で氏の原発に対する見方は、比較的フラットなように思う。三島の子供の事件に関する詳細が明らかになった際の描写を見て分かるとおり、原発が悪いとも、反対派が悪いとも考えていないようだ。むしろ、そういった真っ向に評価の割れる「原発」という存在が、人の心を大きく乱す原因になる、という社会現象を取り扱っている点が、着眼点として面白い。これが単なる原発の危険性を説く内容であったり、原発を毛嫌いする人への警告のような内容だったとしたら、非常に安っぽい作品になってしまっただろう。

また、自衛隊の装備についての話や、原発の方式ごとの違い。世にある原発のどこが危険でどこが安全なのか。あるいは原発にかかわる様々な職業についてなど、我々が知っておくべき知識のまとめとしても非常に優秀。特に面白かったのは、事件が起こった際に、国や電力会社がそれぞれの立場でどう動くかの描写。確かに「安全」という主張を持つ以上はそうなるのだろうな。

 

上記のように社会派小説としては非常に優れている一方、単なる小説として考えた時には、若干物足りなく感じる点もある。以下、結末に触れる為、未読の方はストップ。

とまぁ、ネタバレ内のような理由で全面的にお勧めとは言いがたいと思い、この点数にとどめた。単に自分の理解が足りないだけかもしれないので、納得のいく解釈を思いついた方は、教えていただければと思う。

 

2011/03/16追記

今回の事件で、この書評のヒット数が格段に増えている。なんとなく頭の中にはあったが、整理できていなかった本作品の意図について整理ができたので、ここに追記する。

「有事になる前に真剣に考えろ」こそが主人公の意図だったのではないだろうか。「摩擦が増える」とネタバレ内に書いたが、今回の地震による原発事故のように、有事が発生してから要・不要論を交わすことほど、見苦しく無為な事は無い。悪い事がたまたまおきた時に「だから言ったのに」と調子付く姿はあまり格好の良いものではない。

だから我々は、摩擦が増える事の弊害を覚悟で、この強大な必要悪の存在について、有事になる前に深く考えてみるべきだったのだ。

自分は、有事の前に何も考えていなかった。氏の小説を読んでもその意図すら真に理解できていなかった。非常に恥ずかしい。なので、追記前の感想もそのまま残しておく。

 

(追記に伴い、評価点を変更しました)

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