宇宙戦争
監督:スティーヴン・スピルバーグ/ 原作:H・G・ウェルズ/ 28点
■パニック映画?ホラー映画??
宇宙戦争はH・G・ウェルズによる同名の超有名作品を原作とした映画である。映像は凄いし、原作にも忠実なのだが、結論から言えばかなり物足りない印象。
H・G・ウェルズの「宇宙戦争」は、宇宙物SFの原点ともいえる作品である。ファンタジーにおける「指輪物語」と同じ立場だ。知性が発達しているから頭が大きく、重力が小さいから体は細くという、いわゆるタコ型火星人を考案し、初めて登場させたのも本作品である。
そんな超名作を扱ったがゆえに、スピルバーグ監督の原作へのリスペクトが過ぎたのか、本映画はあまりにも原作に忠実である。無論、原作で馬車や大砲で戦っていたシーンが、車や軍隊に置き換えられていたり、タコ型宇宙人がやや未来的デザインになっていたりと細かい改変はあるのだが、大勢は殆ど原作どおりであり、それが悪いほうに働いているように思う。
以下、壮大にネタバレするので注意
ネタバレ1
まず、設定面。いきなり嵐のシーンからタコロボット登場。いや、原作をリスペクトしたデザインや設定なのは分かる。だが、人々がリアルな映像で大パニックを起こした後に、にょっきり三本足のロボットが現れて、地味に歩きながら地球人を攻撃する姿はなんだかコメディタッチに見えてしまった。どこかで見たぞとおもったら「大日本人」だ。もちろん映像のレベルが数万倍違うが。また、あのビーム攻撃もなんだかなぁ。あまりにサクッと粉末化してしまうので、逆にパロディっぽい。こちらは「マーズアタック」を思い出してしまった。
そして意味不明の殺戮。原作の情報を調べたところ、火星人は人間の血液を吸うという設定らしいが、だとしたら、最初にあんなに殺しまくる意味が分からない。人類の誕生より前から準備して登場したのなら、無駄のないよう、きっちり捕獲すべきだろう。
そもそも原作の血を吸う設定はどの程度生かされているのだろうか?地球が血を吸う為の「牧場」扱いなら、現代まで待つ意味はさほど無い。血をすうだけで良いなら、文化の発展を待つ必要は無いので、大した抵抗の無い、江戸時代なんかにやってきた方が安全だっただろう。そもそも牛が血を抜かれた映像も混じっていたので、人である必要すらないかもしれない(キャトル・ミューティレーションねたを突っ込みたかっただけなのは分かるけど)。人口が増えるのを待っていたのなら、前述の大量殺戮の意味が分からない。最近火星の食事情が悪くなって、という設定が一番すんなり理解できるが、その場合、「人類の誕生より前からトライポッドを埋めていた」という設定が邪魔だ。
さらに言えば、連中は吸った血液を霧状にして町に散布している。餌なら撒くなよと。しかもそれは植物の根のように張り巡らされ、火星人が最後に「体調不良」に陥った際には、一緒に枯れている。ってことは、あの紅い根っこは火星人の一部なのかという話になってしまう。好意的に解釈すれば、「血を食べ物とするが、そのままだと効率が悪いので、植物として育てて食べようとしていた。ところが、それらが地球の微生物にやられて先に枯れた。つまり、火星の生き物は地球の微生物に耐えられない。それが前フリとなって、火星人の死に繋がる」ってあたりかもしれんが、霧状の散布シーンを見る限りちょっと無理がある。説明を求む。
トライポッドの設計も理解不能。スコップで切られた触手が次のシーンで車を持ち上げたりしている。内部からだと手榴弾1発で壊れる、意外なもろさ。挙句に乗組員が病気だとシールドが無くなるってどんな設計だ?運転手が気を失うとエアバックが無くなる自動車を想像して欲しい。普通逆だろと突っ込みたくなるはずだ。
とまぁ、深く掘り下げずに原作を表面上丁寧に再現したら、意味の分からない世界が出来上がってしまったという印象。現代の作品として映像化する以上は現代の作品としてのリアリティが必要なのだ。
また、脚本も工夫が足りない。火星人に対する地球人の無力さを表現したかったのは分かるが、あまりにも序盤から強烈な攻撃、絶望的なシーンを連発しすぎ。おかげで宇宙人と対決するSFではなく、未知の災害から逃げ惑うパニック映画にしか見えなかった。序盤に少しずつの恐怖を入れて、もっと精神的怖さから責めたほうが良かったのではないだろうか?最初からMAXだったので後は同じペースでひたすら逃げるだけ、パニック時の群集の怖さなどは良く描けていたと思うが、おかげで余計にパニック映画にしか見えない。現代の映画なのだから、火星人をもっと知的にしたりして、多方面の怖さを演出していただきたいものである。
物語はそのまま抑揚の無いまま続く。そのうえ、最後の締めがあんなにあっさりなのも、なんだかなぁという感じ。原作どおりだから仕方が無いのだが、あまりにも竜頭蛇尾。これも最初から派手にしすぎたつけが回っている気がする。
とまぁ、ネタバレ内に書いたような理由で本作の印象は「ゴジラ。ただし、倒すシーンなし」という感じ。SFを期待すると後悔する。
ただこの映画、映像以外にも救いはあって、子役のダコタ・ファニングの演技が異常にうまい。というか、怖い。一人「楳図かずお」の世界の住人の顔で叫びまくるのだ。見ているこっちがパニックになりそうだった。さっきまでパニック映画と書いたが、リアクションだけで言えばホラー映画だと思う。
金髪色白で彫りの深い顔は、ゴチック作品にぴったり。トムクルーズと競演するなら、インタヴュー・ウィズ・ヴァンパイアのような作品が向いていたのではなかろうか。
そのかわり....めちゃくちゃうるさい。序盤からキーキー叫びまくりのうえに、トムクルーズの演じるのが馬鹿親であるがゆえに、家族三人で常時叫びあい、娘はキーキー、群集はギャーギャー。最初の10分でテレビのヴォリュームを半分まで下げた。間違いなく、過去に見た映画の中でもっともうるさい映画だ。子供のキーキー声が嫌いな人は無音字幕のみで見る事をお勧めする。
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