ザ・ビーチ
監督:ダニー・ボイル/ 原作:/ 40点
■「夢のような生活」の生活レベルが低すぎる
「南国の素敵なビーチに行ったら大変なことに」という、いかにもハードなイメージのトレーラーは飽きるほど見たが、まさかこんな映画だったとは。ディカプリオの血沸き肉踊るアクションシーンを期待して見ると、がっかりすることになるのでご用心。
本作はさえない主人公が「環境が変わると自分が変わる」という甘ったれた期待で南国を旅する話。「一般旅行客ってやつは」と周囲を馬鹿にするモノローグから映画は始まるが、実のところ、主人公こそ単なる「空気の読めない世間知らずのゲームオタク」だったりする。本作では彼が虚勢で前に進み、災禍の目となる。
で、たまたまある地図を手に入れた主人公は、夢のようなビーチにたどり着く。ところが、彼の行動が元でトラブルが発生。「蠅の王」のようなどろどろのサバイバルゲームが繰り広げられる....のかと思いきや、そうはならない。ややショッキングなシーンもあるもののホームドラマのごとき小競り合いが続き、とても穏やかなエンディング。結局、「アメリカドラマにありがちな性と薬の青春物を、ちょっぴり過激に描きました」程度の小粒な作品に納まってしまった。あらら、という感じ。
「蠅の王」のオマージュにしては弱すぎて失敗。主人公がオタクであることを利用したある展開を「狂気」の開始にして、恐怖の展開を描くことも可能だっただろうが、そういうわけでもない。非常に中途半端な印象。
「ビーチでの夢のような生活」がまったく魅力的に見えなかったこともあり、個人的にはまったく感情移入できず。映像も音楽も演技も悪くないが、脚本が悪い。40点。ディカプリオのファンには70点....といいたいところだが、幻滅するのでむしろ見ないほうが良い。本作のディカプリオは非常にダサい役なので。しかもそれがハマり過ぎている。イメージ落ちるよ。
以下は、超ネタバレ感想。これから見る予定の人はここまで。かなり残念な評価なので、この映画が面白かったという人は読まないように。気分を害しても責任は取りません。感じ方は人それぞれ。
ネタバレ1
とにもかくにも、ビーチに魅力を感じない。いくらロハスな生活が好きでも、あんな程度の低い食事しかない、娯楽の少ない島で、プライベートの無い集団生活をしたい奴がどこにいるのか?あんな集団に属したいのは見られながらヤルのが好きとか、スワッピングが趣味の変態ぐらいだろう。まぁ、みんな吸いたい放題の麻薬でラリってるから、正常な判断ができないのかもしれないが、とにかくリアリティが足りない。
「退屈な序章」から「地図の提供者の謎の死」そして、「ビーチへの道」への流れはなかなか面白かったのに、ビーチにたどり着いた瞬間に一気に冷めてしまった。共同生活する島民がもっと「恐い」匂いをかもし出しているならまだしも、ただの飲み屋の客にしか見えないのだからどうしようもない。買い物のシーンで、一時的にバンコクに戻った際「こんな町は嫌だ」と主人公が漏らすが、正直ビーチとの区別が付かなかった。どっちも飲んで騒いでいるだけの集団だろうに。買い物の量や、日常生活におけるリアリティの不足については書き出すとキリが無いので割愛。ちなみにタイはあんな嫌な国じゃない。もっとハートフルで素敵な国だ。
島民は馬鹿ばかり。地図のコピーが出回ったら「侵入を防ぎなさい」って馬鹿か。誰かを派遣して地図を取り返してくるべきだろう。さらにコピーが増えたらどうする。そもそも、最初に主人公が登場したり、コピーが出回った理由も、「地図を持った島民を単に追放」などの適当な対処が原因だろう。やっぱりクスリのやりすぎか?
麻薬を作っていたタイ人も、「集団生活者」を黙認する時点でアウトだろう。黙認しておきながら、侵入者を撃つし。そこまでしているのに、解散した集団生活者を帰らせるってどうよ。「あそこの島、麻薬作ってる奴がいて、4人殺したよ」で一巻の終わりだと思うのだが。
設定や脚本にもほころびが多い。泳いでたどり着いた島なので、泳いで戻ることが可能。しかも、買い物船があるので、それを使えば誰だって脱出できる。「閉ざされたコミュニティの狂気」を描くにはそもそも「孤立度」が足りなさ過ぎる。そもそもあんな気軽に無人島で焚き火をしたら、遭難者だと思われて通報されるぞ。
一人見張りを命じられ、ゲームの世界の人間になり、ちょっとおかしくなった主人公が小屋にいたら「お前、集団作業もしないしなにやってるんだ」って、お前の台詞がナニヤッテルンダだ。主人公は見張りに回されたはずなのだから、「こんなところに座ってないで、さっさと見張りに戻れ」が、正しい。そうでないなら、「ゲームの世界の人間になって」というシーンは主人公の妄想だったと解釈することになる。まぁ、どちらにしても、迷い込んだ観光客の一人を殺してしまう原因になる以外は、まったくストーリー的に意味の無い設定。バランス悪いなぁ。
感情移入できる人間が少ないのもこの作品の問題。彼女を寝取られたのに、フレンドリーで冷静で、はじき出された重病人の看病も行った、フランス人の彼ぐらいだろう、まともな人間は。
主人公は、人の女を寝取るつもりで彼氏ごとさそう→寝取る→別の女に手を出す→へまをしまくる→現実逃避してゲームの世界へ→4人が死ぬ原因を作る→脱出に邪魔な怪我人を絞殺しながら、偽善的に泣く→そのくせタイ人の麻薬農民に追い出されそうになった際には「この島は狂ってる」っておい。結局絞殺後1時間もせずに全員で脱出したので、怪我人は締め殺され損。挙句に現実世界に戻り次第、「あっという間に現実に慣れてしまう」とかほざいて、送られてきた写真を見て思い出に浸りニヤニヤ。お前、自分が殺人犯だっていう自覚はあるのか?
フランス女にいたっては、主人公とフランス男の二股をかけてたくせに、主人公と集団の女リーダーが寝たと聞いて、超激怒。お前、身から出た錆だって。窮地にも主人公を見捨てておいて、脱出後には思い出の写真を主人公に送信、ってどんだけ自分の世界の住人だ。
そんなわけで、この映画のタイトルは「ザ・ビーチ」から「ザ・ビッチ」に変更確定。とりあえず脚本家は「嫌なことがあったら現実逃避。人を殺したのも、今となってはほろ苦い思い出」という奴なので、個人的お付き合いは避けるべし。これぐらいなら、「殺し合いになって主人公以外死亡」って展開の方が、よっぽどハートフルな映画だと思う。ほかが良くとも脚本が駄目では話にならない好例。ちょっと「蠅の王」を読み直して来い。
なお、後でwikipediaで調べてみたら、やはり音楽の評判は良いらしく、サントラが物凄く売れているらしい。残念ながらDVDの売り上げ枚数については触れられていなかった。
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