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借りぐらしのアリエッティ

監督:米林宏昌/ 原作:メアリー・ノートン/ 58点

■最初の30分は楽しいのだが...

 

借りぐらしのアリエッティはジブリの最新作。原作はメアリー・ノートンによるThe Borrowers。今回は脚本のみを宮崎駿が担当し、監督は米林宏昌という別の監督が行なっている。その結果、宮崎駿の難解さやクドいまでのメッセージ性は無くなった物の、地味で平坦な映画になってしまったという印象。

 

本作は心臓が弱くて田舎に越してきた少年と、人間の持ち物を借りる事で暮らしている小人の家族の物語である。本作は最初の30分ぐらいがとても面白い。猫とのドタバタも楽しいし、表面張力が相対的に大きくなる事で、玉のようになる紅茶や、ビルディングのようなたんすなど、映像的に見るべき点が沢山あって、非常に楽しいのだ。

 

しかし、その後がなんともゆるい。お手伝いのばあさんは悪人としては小物だし、少年の病は大した深刻さではないしで緊迫感のあるシーンが足りなさ過ぎるのだ。ジブリ映画の見所といえば「綱渡り」的演出なのに、物語後半、小さい事による怖さやスピード感が生かしきれていなかったのではないだろうか。

また、少年とアリエッティの関係も薄すぎる。恩人でも恋愛対象でもないため、出会いも分かれもゆるいのだ。少年の危機をアリエッティが助けるとか、アリエッティのある何かの特徴が病がちな少年にとって憧れの対象になるような設定を仕掛けておくとか、いっそ壮大な恋愛映画にでもしてしまえばよかったのにと思う。ひょっとして条例を気にして少年少女の恋愛を描くのを避けたのかと勘ぐってしまう。いや、無論冗談だが。

 

宮崎駿監督の良さは作っているうちにアイデアが泉のように湧き出すところで、脚本だけに浅くかかわっても本当の良さは出ない。また、米林監督も宮崎駿に気を使ったのか、本人のやりたかった事はできなかったのではないか。こんなにあっさりした物語になるぐらいなら、脚本も含め丸ごと米林監督にやらせるか、意味が分からなくても宮崎駿監督の方が映画として面白いような気がする。

 

そんなわけで、映像は楽しいがちょっと惜しいジブリ作品。58点ぐらいにしておこうかな。悪くない作品だし子供に見せたい作品ではあるけど、いつもみたいに何度も見たくなる作品ではない。