透明人間作者:浦賀和宏/ 原作:/ 55点
■みえないということ
「透明」を結果的に成立させる条件は、数多く存在する。透過率が100%で屈折率が0%である。背景と同じ色である。背景も対象も複雑な模様である。観察している場所が違う。観察している時間が違う。観察者の視力に問題がある。観察者の記憶に問題がある。観察者の判断に問題がある。いずれの場合においても、観察者が存在を認識できない状態であれば、物が見えない状況は成立しうる。
本作品中では、物語の終盤に上記のどれにも当てはまらない「透明」が登場する。その透明度は上記のどれよりも高く、決して目に映ることはないだろう。メインの舞台となる研究室でのトリックはさほど目新しいものではない。細かい布石を読み飛ばしてしまう速読派の自分でも、話の流れである程度の想像はできてしまった。しかし、意外な形で探偵役を担うこととなる、ある人物の手によって明らかにされる、過去の事件との連携は美しい。 しかし本作品の本来の魅力はそこだけではない。心に傷を負った主人公が最後にもうひとつ「透明」なものを見つけるまでの心の成長の描写こそが、この作品を面白くしているポイントであろう。意外と小・中学生ぐらいの読者にお勧め。
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