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新本格魔法少女りすか

作者:西尾維新/ 原作:/ 82点
新本格魔法少女りすか

新本格魔法少女りすか

価格:924円(税込、送料別)

■のび太君が頑張る作品

 

ドラえもんの主人公がのび太であり、ハットリ君の主人公がケンイチ氏であり、ハクション大魔王の主人公がカンちゃんであるように、本作品の主人公は、魔法など一切使えない、10歳の少年である。その少年と、長崎から来た同じく10歳の魔法少女を中心に物語は進められる。しかし、この少年はただののび太君ではない。

 

魔法と言えば消えたり、化けたり、空を飛んだりするものであり、非常に便利なものという印象がある。しかし本作品で登場する魔法は、そういった便利でお手軽なものとは異なり、非常に大きな制約を伴う。

仮に評者が磁力を扱う魔法を手に入れたとする。磁力が操れれば、X-MENのマグニートのように、何でもできそうな印象があるが、実際にはそううまくはいかない。例えば、身の回りにある金属で磁石に引き寄せられるのは、せいぜい鉄ぐらいで、実際には磁力の影響を受けない金属が大多数である(ただし、鉄は最もポピュラな金属ではあるが)。そして磁力は鉄を引き付けるが、断じて遠ざけたりはしない。

魔法を現実にあるものとして仮定したとき、そこに現れるのは、思った以上の使い勝手の悪さと、副作用である。缶ジュースを手元に引き寄せようとしても、アルミ缶は飛んでこないし、強大な魔力で自動車を引き寄せようとすれば、質量の都合上、空を飛ぶのは自分の肉体であろう。鉄の弾が飛んできても、自分から遠ざけることはできない。このような負の側面をきちんと抑えたとき、オカルトは一種のSFに変貌する。

 

本作品は魔力を持たない少年が、知力だけでいかに魔法と戦うかを描いている。例えば鉄の弾を磁力で避けたければ、前もって近くの鉄の扉に、銃の火力よりも強い磁力を与えておくことで実現できるだろう。逆にそうやって弾を避ける魔法使いを打ち抜くには、扉と自分の間に魔法使いを誘い込めばよい。誘い込んだと思って引き金を引くと弾が飛ばず、銃身が爆発。「残念だったな。既にその銃は磁化させてもらった」「な、いつのまに....ガクッ」とまぁ、そういう物語だ。明言しよう、これは小説版「ジョジョの奇妙な冒険」である。

「HUNTER x HUNTER」など戦略性を売りにした漫画は多いが、そのトリックの複雑さと奇抜さで「ジョジョ」を超える作品は無いだろう。また多くの作品が能力を成長させてしまうのに対し、能力自体はあまり成長せず、精神や知性が成長するのも「ジョジョ」だけだ。いわゆる「強さのインフレ」を起こさずに、長期連載を可能としたのはそういう性質に負う所が大きい。

本作品は「ジョジョ」をリスペクトしたものと考えられ、作中には「ジョジョ」特有の台詞回しや、実際の台詞や状況の引用などが頻出する。思い返せばこれまでの戯言シリーズにも「ジョジョ」などの漫画の台詞は多数引用されており、戯言シリーズでの「殺人技能集団」の登場、その特殊能力の描写への固執も「ジョジョ」再現への試みであったのだろう。

 

西尾作品中でいつも気になるのは、主人公の異常性である。サディズム満点の性癖は個性だから見逃したとしても、どうも道徳性の欠如が鼻につく。道徳性の欠如が悪いわけではない。天才を描く手法として「善悪に定義など存在しない」という概念は良く使われるツールであり、実際に森作品中では人物の天才性を効果的に強調している。しかし西尾作品中ではそれがどうも猟奇性に見えてしまう。この事実が、読者の感情移入を難しくしているのではないかと思う。

まぁそんな細かい突っ込みはともかく、作品は非常に面白かった。テンポも心地よく、稀に見る熱中度で読み終える事ができた。これほど「絵」の浮かぶ文章はそうそう無いと思う。作品の特殊性ゆえ、無条件に他人に薦める気は無いが、自分は今後も西尾作品の熱烈なファンを続けるだろう。

 

註1:そもそも通常の弾丸は鉛なので磁石にはくっつきませんけど。ジョジョの世界だと「金属なら何でも」といった特殊な能力にすれば問題は無いですが。

註2:遠ざけることはできないと書きましたが、非鉄金属に対し、円筒形の回転体の周囲にN極、S極交互に取りつけたローターと呼ばれる部分を高速で回転させ、非鉄金属を近づけると渦電流が流れ、反発磁界が発生して跳ね飛ぶそうです。この方式なら弾丸も避けられますね。

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