ダブルダウン勘繰郎作者:西尾維新/ 原作:/ 80点
西尾氏の戯言シリーズ以外での初めての作品。清流院流水氏の世界観を引き継いだ作品であるらしい。なおbaristaは清流院氏の作品をまだ読んだことが無い。したがって書評中に不適当な評価が存在する可能性を先に示唆しておく。 なお余談であるが本シリーズは表紙のイラストレーターがジョージ朝倉氏に代わっている。戯言シリーズのイラストレーター竹氏の装丁は可愛すぎて、ある意味写真集を買うより抵抗があったので少し有難かった。baristaが他人の目が気になら無いような天才ではない事の証明である。
作品は主人公である勘繰郎ではなく、語り部である蘿蔔むつみによって語られる。物語は勘繰郎の突飛なキャラクタにぐいぐい引っ張られるようにして進み、あっという間に結末を迎える。語り部が冒頭で述べているように、複雑なトリックも前振りも何も存在しない。通常のミステリーであれば1〜2章分のエピソードという所であろう。実際気が付けば1時間程度で読了してしまった。この感覚は何かに似ている。そう、古本屋やマンガ喫茶で漫画を1巻から読み切る時のそれである。ミステリー作品としての満足度を考えると少し物足りないのかもしれないが、このジェットコースターのような快感は非常に気持ちが良い。
西尾氏の作品中には常に「天才」が現れる。というより多くの場合天才が頻出する。天才には2種類あって、それはスペシャリストとジェネラリストである。これまでの西尾作品には、多くのジェネラリストを登場した。しかし今回の主人公勘繰郎はスペシャリストである。彼は頭脳明晰とか、冷静沈着とかそういった評価とは無縁の存在である。しかし彼は立派に天才なのだ。 天才とは、全能力を一方向に向けることができる才能を持つ者のことである。勘繰郎はどうやらその才能だけを持っている。天才というよりは天才の蕾。遅咲きの天才。西尾氏の描く天才の中では、初めてのタイプだ。本作は全てを感情論で終わらせてしまうような話で、これまでの感情の存在すら疑わしい天才による犯罪を取り扱った作品とは趣が異なる。安直な物語といえばそれまでだが、主人公の性質の目新しも含め、新しいコンセプトでの作品への挑戦として好意的に評価したい。感情こそ人間らしさの象徴で、感情が天才を作る。そう言ってくれる天才がいたら、ちょっとカッコイイじゃないか。
Copyright barista 2010 - All rights reserved. |