空気人形監督:是枝裕和/ 原作:業田良家/ 95点
■フランス映画に負けない妖艶さ
空気人形は2009年の邦画の傑作である。18歳以上の偏見のない映画好きはこんなくだらない感想文なんて読むのをやめて、さっさとレンタル屋か楽天かAmazonにでも向かうべきだ。
本作品の主人公「のぞみ(ペ・ドゥナ)」は空気人形。板尾創路演じる四十路のさえない男が、どこかで購入した空気人形、一般的な名称で言えばダッチワイフである。その空気人形であるのぞみが心をもって動き始めてしまったら...というのが物語の主題だ。 と、ここまで読むと、「電影少女」のような、「非人間が理想の彼女に」という童貞少年の夢のような物語かと思われそうだが、そうではない。彼女は持ち主の男を好きになったりはしない。心を持った空気人形は、人の姿となって町をさまよい。あるビデオレンタル屋にたどり着いて、そこで恋をしてしまうのだ。
普通こんな冒頭を見せられたら、元の持ち主との三角関係だとか、失恋だとか、ハッピーエンドだとか、そういった展開を想像することになるものだ。しかし、この映画の脚本はそういった安易な感動路線を選ばない。あくまで等身大で、空気人形である事の悲しみや、空気人形として生まれた事による喜びを描き、物や命の存在する意味・生きる意味へと般化している。物語途中で登場する、老人、老婆、拒食症の女などはそれを見失った「空っぽ」の人間として描かれたものだろう。 また、思いを寄せた青年(ピンポンで一躍有名になったARATAが演じている)との関係の描き方も実にうまく、一部はゴチックで実に倒錯的に美しい。
惜しむらくは終幕直前の冗長さ。CGの安さもあいまって、作品の鮮烈さを濁してしまった印象。とはいえ、最後の台詞のためにも必要なシーンだったのは理解できる。
そんなわけで、この間口は狭いが圧倒的に美しい作品。映画好きに100点、大人に90点。家族で見ると会話に詰まるので、お子様は大きくなってから1人で見ましょう。
なお、本作品は「ゴーダ哲学堂 空気人形」というタイトルの漫画原作がある様子。こちらはまだ読んでいないので、ちょっと探してみようかと思う。
追記:原作の業田良家氏はあの「自虐の詩」の作者でもあるようだ。ちょっと原作を探してみようかな。
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