アイランド
監督：マイケル・ベイ/ 原作：/ 35点
■登場が30年遅かった
アイランドはマイケル・ベイ監督によるSF作品だ。ある汚染地域から救出された人間たちは、審査を通過すると「アイランド」という極楽の地に行くことができ...という、もう最初から胡散臭さ満点のストーリーである。主要な登場人物たちはその「救出された人間」であり、救出の過程で記憶が混濁しており....という設定なので、みな一様に言動・表情が子供っぽい。特に主人公のそれはずば抜けている。「誰だこの馬鹿っぽさ満点の俳優は？どっかで見たなあ」と最後まで思い出せなかったのだが、後で調べたらStar Warsの若き日のオビ＝ワン役の人だった。この馬鹿っぽい演技は凄いなと思ったものの、よく思い出せば「若いころのオビ＝ワンがなんか馬鹿っぽく見える」と思ったような気もするので、元々そういう顔なのかもしれない。
物語の転機はヒロインがアイランド行きとなった事。たまたま忍び込んだ場所で主人公は驚愕の事実に気づいてしまうわけだ。何が驚愕かといえば、「まさか想像通りの設定だなんて！」ってあたりだが。しかしまぁ、この手のお気楽なファミリー向けSF作品に、複雑な設定などは必要ない。ダイナミックな映像と、それなりのスリルと、ちょっぴりの感動があれば十分である。...が、正直なところ、そのうちの映像部分しか実現できなかったようだ。
実際のところ、本作品はドキドキしたり、感動したりするには穴が多すぎる。もちろん、所詮はフィクションなので、ご都合主義や都合のいい設定があるのはかまわないが、根本的に何も考えていないとしか思えない設定・展開なのである。
ネタバレ1
まずは世界設定。なぜ大人のクローンたちを人間的に生活させているのか。彼らに中途半端に記憶を与え、人間として飼っている理由がわからない。もっと効率的な飼い方は多数思いつく。
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�△修發修癲△發辰肇灰鵐肇蹇璽薀屮襪糞�憶を与え、牛馬を飼育するがごとき環境での飼育を可能とする。
��人間として育てても、自由や職を与える必要は無い。
それにだ。そもそも成人まで育てる意味が解らない。顔の怪我に備えるというようなモデル向けのプラン、体の部品を取り替えるためのスポーツ選手向けのプランならまだしも、病気の際の内臓のスペアという意味でなら、わざわざ成人・老人まで育てなくとも、少年かせいぜい青年程度まで育てておけばよろしい。遺伝的疾患などなら、同い年まで育てればクローンのほうも発症が懸念される。
さらに言えば、1人１体というクローン飼育体制も謎だ。通常であれば飼育に失敗した、病死・事故死した、等の緊急事態に備え、スペアを準備するだろう。現に、主人公のクローン破棄やヒロインのクローン不在の際には顧客への契約が履行できていない。普通なら、別ロットで複数作るだろう。
人として成人まで育てるなら、筋トレが必要、あるいは脳障害の際、脳を半分だけ移植できるように脳を発達させておく必要がある、など合理的理由が必要である。後者の場合、本物との差異を避ける為に、眠らせたクローンに本物の記憶をずっと夢で見せるなど、よりリアルな設定へと発展するだろうに。
それから、15歳程度に知識をとどめ、男女の身体接触を禁じ、性的なものを教えないように、云々というくだりがあったが、教えなければ目覚めないとでも思っているのか、ベイ監督は。性衝動は本能なので...なんて真面目に説明するのも馬鹿らしい。監督の飼う犬は突然腰を振ったりはしないのだろうな。というか、アメリカの15歳の性知識をなめているのか。閉じられた温室で育てられたのは、クローンではなく監督ご本人なのじゃないのかと疑いたくなる。
しかしまぁ、SF的設定に穴があっても物語として面白ければそれで良い。しかし、本作は感情移入すら難しくするような雑な展開が多い。
ネタバレ2
例えば主人公を逃がした研究者。なぜ彼の逃亡に協力しようと思ったのか、その理由がわからないので全く共感できない。それまで何も疑問を感じず商品として扱ってきたのに、なんなんだその心変わりは。挙句人目も気にせず行動してズドン。お前の頭でよく研究者が務まったな。
研究所の警備も酷い。鍵が在れば誰でもどこでも入れるとはゆるい元軍事施設もあったものだ。どうやらマイケルベイ監督の描く未来にはセコムが入ってないらしい。長島茂雄もさぞお悲しみの事だろう。簡単に逃げられた挙句、「どこだー」では余りにも情けない。折角腕輪をつけているのに、GPSもつけてないのか。普通なら、施設から離れると自動的に内側に毒針が出て死ぬぐらいの設定があってもおかしくは無いぞ。
ど派手なチェイスで町をめちゃくちゃにして、あれで秘密裏に処理できると思ってるボスも頭が悪いし、突然裏切る黒人ボディーガードも意味不明。なぜかクローンに本体の記憶が混在する科学的根拠も皆無なら、その事実がストーリーと絡むこともない。なんとか回収しろよ。
ヒロインは病死しかけた本体の子供と電話で話すが、その後も子供の登場は無し。子供にとってはクローンであろうと、母の姿を持つヒロインが...的な展開でいくらでも観客の涙を搾り取れるだろうに。そういう展開が無いなら、わざわざ子供をキャスティングするなよ。
そして、施設の破壊は「さわるな危険」と書いたブレーカーをバチン。オーバーヒートでドカン。どこの世界にリセットボタンの付いた軍事施設があるんだ。ブレーカーは安全にシステムを落とす為の装置であって、ブレーカーでシステムが壊れるなんて聞いたことが無いぞ。breakerという英単語の意味をそのままに解釈したのだとするなら、ベイ監督は英語も苦手なのだとみえる。
挙句に、クローンみんなで「わー外の世界だー」で終わりとは何たる事か。要人のクローンであること意外は何の価値も無い、生活能力も戸籍もなにもない成人の集団が今後どうなってしまうのか、そこを描かなければ、クローンネタを題材に選んだ価値は無い。
ネタバレ内で散々悪口を書き散らしたが、じゃぁ見て損したと思ったかというと、それ程でもない。奥様と二人、おかしな設定を指差してゲラゲラ笑いながら楽しく鑑賞させていただいた。映像はきれいでど派手なので、お笑い番組だと思ってみれば非常に面白いかも。
そんなわけでマイケル＝映像にしか興味がない＝ベイ監督の大作SF映画、シナリオ重視の人に0点。普通の人に10点。ラジー賞好きに100点。まぁ、ビデオやテレビで見る分には腹も立つまい。
追記：あとで調べたら、実際にラジー賞に多部門エントリーされた迷作らしい。さもありなん。
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